ヒカルの碁 〜完結にあたって

あるいは月並みな表現かもしれないが、『ヒカルの碁』は、「進藤ヒカルと塔矢アキラのラブラブロマンスである」としか思えない。
ジャンプの連載が完結したのを機に、この、日本に一大事件(子供の囲碁ブームという)を巻き起こした傑作についてコメントしてみよう。


『ヒカルの碁』傑作台詞集

この漫画のストーリーは、あたかも一局の碁のように流れがあり、ヒカルvsアキラという対決を軸に、魅力的なサブキャラたちがさまざまなドラマを繰り広げるというものであり、じつにわかりやすい。
したがって、ストーリーを追うコメントは、どうしても陳腐になりがちだ。
そこで、この漫画の傑作台詞を列挙して、特長を浮き彫りにしていきたい。
なかには、単に私のお気に入りというだけで、メインストーリーから外れたものもあるが、そこは雰囲気を味わうために、あえて入れたものと理解していただきたい。


この一手は、最善の一手ではない。…最強の一手でもない。

なんとも大げさな雰囲気のある台詞だが、覚束ない手つきでいかにも「初心者で〜す!」みたいな相手が、思いも寄らぬ力をみせつけては、無理もないだろう。このあたり、「囲碁漫画」っぽい雰囲気をかもし出している。
『ヒカルの碁』は、囲碁漫画でありながら、囲碁の具体的手段にはほとんど触れないのが特長だが(この点、将棋漫画である『月下の棋士』と対照的)、こうした台詞が抜群の効果を発揮している。
この台詞、じつはネットで1回だけ使ったことがある。ただしパロディだが。

dynamite__kid:この一手は、最善の一手ではない…。
dynamite__kid:最強の一手でもない…。
dynamite__kid:…ただの悪手だ。

という3段攻撃である。
相手はi_magicさん。
こんなチャット、知り合いでなければとてもできない。
ただ、このときは私がハンドル変えたのを知らなかったらしく、無反応であった。
さぞかしむっとされただろうなあ…(反省)。


よくここまでついてきました。
そなたの力があってはじめて、この棋譜はできたのです。誇りなさい。


これも、i_magicさん相手に使った。
勝局のあとにこれをやると、めちゃめちゃ偉そうである。
原作を読んだとき、一度使ってやろうと思っていた。
しかし、まじっくさんは、つくづく私のチャットの被害にあう人だなあ…(笑)。
でもこの台詞は、実は囲碁の精神の真髄を的確に現した、本作品でも極めつけの名台詞なのである。
囲碁は、勝負事でありながら、相手も強くないと、美しい棋譜はできない。
当然のことであるが、きわめて重要な真理である。
したがって、相手を尊ぶ精神ができ、また、『ヒカルの碁』がラブラブストーリーになるのも、このことに根ざしている。
つまり、自分にとってまたとない相手、そう、Sabaki流にいえば、「宿敵」に出会うことこそが、プロ・アマを問わず、無上のよろこびなのである。



ネットを通じても伝わってくる、この気迫…

んなアホな、などと言うなかれ。
これは、実際にあるんですよ!
ポピュラーなところでは、sn056jpさん。
彼は技術云々よりも気迫で打つ人なので、「絶対にこの石を仕留めてやる!」という気迫がびんびんに伝わってくるのです。
私のようなシノギ人間にとっては、まさにその迫力がたまらないのですが…。
また、初手に天元を打つ人の場合、初心者か超強豪かどちらかですが、1回だけ、ただならぬ気配を感じたことがあります。
やはりその人はめちゃめちゃ強かった。よく見破れたもんです。真面目に打ってよかった。(^_^;)


こんどはあなたが、彼を追う番です

追いつ追われつ、ラブラブゲームをまさに象徴する佐為の一言である。
この台詞を見て、すぐに連想したのが『はいからさんが通る』である(笑)。
これ以降、進藤ヒカルの頭の中には塔矢アキラしかない状態になる。
一方の塔矢も、進藤ヒカル意識しまくり状態である。


整理のつかない頭で、ボクは考える。なぜ君はボクを追い、ボクは君を追うのかと…。

人(主に緒方九段)から指摘されると、むきになって否定するくせに、一人になると、相思相愛状態なのを自覚している。
きわめつけなのが、次の台詞である。


二人いる


正確には思い出せないが、この後に、「君を一番知っている、ボクだからわかる」といった意味の台詞があったと思う。
まさに、「お前を俺がこの世で一番知っている」とばかりの、自信さえ感じさせる名台詞である。
しかも、当たっている。
…って、もっと早くわからないかなあ?


やけに定石の形が古い


だから、秀策が打ってるんだってば!


それより、秀策の棋譜を並べること


塔矢アキラ、星一徹状態である(笑)。
しかも、ちゃんと大リーグボール打倒ギブスならぬ、「進藤ヒカル打倒棋譜」まで用意している。
それが秀策というのも、とんでもない話である。
相手が秀策ならば、棋譜をいくら研究したところで、院生にかなう相手ではないだろう。
もっとも、これはまだ塔矢がヒカルと佐為を混同していたために生じた誤解である。
塔矢は、どうしても出会った頃のヒカル、つまり実際には佐為が打っていた碁を意識しているので、こうした攻略法を考えたのだ。
すでに自分の碁を身につけているヒカル相手の戦法としては、残念ながら的外れと言わざるを得ない。
「でも、ヒカルは佐為の弟子のようなものだから、佐為の棋風を受け継いでいるのでは?」という疑問もあろうが、弟子が必ずしも師に似るとは限らない。
本因坊秀哉は、本因坊秀栄の弟子であるが、棋風は正反対といってもよい。
秀哉はハードパンチにものを言わせるファイター、秀栄は典型的なボクサータイプである。
話がそれたが、いずれにせよ、わざわざ越智に「3球とも打つんじゃい!」みたいな猛特訓をさせてまでヒカルの力量をはかろうとする塔矢アキラは、すでに「あなたしか見えない」状態である。
「そのためにボクが来た」なども、進藤ヒカルをよく知る者は、自分をおいて他にないと言わんばかりである。


ふざけるなっ!


いかにもヒカルの恋人役、といった扱いをしているが、塔矢アキラは、髪型を除いて、決して女性的なキャラではない(髪型は、実際にいたら、変なやつだろうけど)。
この台詞は、つごう2回はいている。
すぐに熱くなるキャラであり、若獅子戦 をヒカルがさぼった時も壁を叩いて和谷をびびらせていた。
ヒカルはいかにも無邪気で奔放、塔矢との会話では大抵相手を圧倒している。
かたや塔矢は、熱くなったり、ふりまわされていたりで、結構可愛いキャラである。
「いつか話すかもしれない…」(ヒカル)に対して、エレベーターまで追いかけていって、勢い込んで追及したり、その後「今のオレでいいって言ったじゃないか!」(正確には忘れた)とやりこめられて、「それはそうだけど…」なんてところは、まさに真骨頂である。



おまけ〜Sabakiの予想

しかし、最後は両者、思いを遂げて、相思相愛なのをあらためて確認しあって、めでたし、めでたし・・・で終わったのは、正直意外だった。
私は、『ヒカルの碁』のエンディングは、「ヒカルvs佐為」だとひそかに思っていたのだが…。
たとえばこんな感じである。

すでに「塔矢アキラ越え」も果たし、あとは「神の一手」をめざすだけとなったヒカルに、佐為が真剣勝負を挑む。
もうすぐお別れ…佐為もヒカルも、いつかはこの時が来ることを、うすうす知ってはいた。
ヒカルも全身全霊をこめ、「生涯の一局」とも言える打ち回しで、容易に佐為 も勝機を見出せない。
局面は形勢不明のまま進む…。
ヒカル「佐為、どうした、お前の番だぞ」
佐為「……」
ヒカル「佐為?」
佐為の影が薄くなっていく。
ヒカル「佐為…」
佐為「神の一手…」
ヒカル「なに?」
佐為「神の一手が、見えた…」
ヒカル「なんだって? どこ? どこだ佐為!」
ゆっくりと扇子を上げ、盤面の一点を指そうとする佐為。
しかし、しだいにその姿は薄くなっていく…。
ヒカル「お別れなんだな…佐為、ありがとう…」
佐為がふっ、と笑い、ゆっくり消えていく。
かくて「神の一手」は、永遠の謎となったのだった。
ヒカルの頬を一筋の涙が流れる。
「佐為…さようなら。これからは、オレが自分で、神の一手をさがすよ…」
決意を新たにするヒカルであった。
―THE END―

な〜んちて、やっぱり、凝りすぎ。そもそも、この漫画のメインストーリーを全く意識してないね…(^^ゞ
やっぱりプロはすごいね。あっさりしていて、ちゃんとドラマチックに仕上げるんだから。



戻る