パイロット
           森 公宏

最近 空を飛ぶことについては
そんなに考えなくなった

子供の頃には
よく憧れたものだ

鳥のように
風のように
自由に空を翔られたら
と願ったものだ

もしも鳥に生まれていたら
そんなこと願いもしなかったのだろう

実現できた夢は
もう夢ではなくなるのだ

二十世紀
人類は様々な翼を得た

空を飛ぶことはもはや
移動手段の一形態でしかなくなったのだ

いつしかパイロットになっていたぼくは
幾度となくフライトを繰り返しているうちに
雄大な空からの景色も
それほど感動を覚えるものでもなくなってしまった

自分の中で
こんなものだろうと
予想ができるようになってしまったのだ

大空から見る朝焼けや夕焼け
地表の都市の夜景も
見慣れた街角の景色と
さほど違いはないものなのだ

夢を実現してしまった後の
虚しさったらない!

人は夢を実現しようと
努力している間が
最も幸せなのかも知れない

でもぼくは
いつだって
誰も実現していないことを
未だに夢見ている



   夢
         森 公宏

初夢
去年は亡くなった弟の夢だった
朝起きると涙で枕が濡れていた

夢は脳のヴァーチャルな疑似体験なのだ
現実を元にした不随意な世界

もしも夢を自由にコントロールできたら
世界征服だって可能だ

一月二日
今日は良い夢を見たい



   言葉探し
           宮本泰子

虚しい
哀しい
寂しい
侘びしい
そんな一言で表せない
今の気持ち

もっと適当な言葉は無いのか
思考を重ねる
腹立たしい程 悔しい



   SL列車
         宮本泰子

まるで久々の友に会える様に
朝から落ち着かない
今日はSL列車が通る日
陸橋の線路の真上でカメラを構える
大勢の人が集まって来る
豆粒位から三・四回シヤッターを押す
汽笛の挨拶を忘れない
懐かしいSL列車は
ぴかぴかに磨かれてあか抜けていた
元気だったかい、

修学旅行の楽しかった事
都会から二十四時間かけて疎開して来た時
顔も鼻の穴も煤だらけになった事
通学の時 豚車に押し込まれた事
学徒動員から引き揚げる時
大阪の街は炎に包まれていた事

私の思い出号が余韻を残して
ゆっくり走り去って行く