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詩集3





   頑固親父
         森 公宏

僕らが子供の頃には
町内にがんこじじい≠ニ呼ばれる
明治生まれの気骨ある爺さんが居た

「オキヤのオヤジは恐いぞ!」
「おれもこないだ怒られたぞ」

もちろん叱られる原因は
僕らにあったのだろうが
その店で買い物をする時は
僕らは僕らなりに
そのがんこじじい≠フ機嫌を損ねないよう気を遣いながら
覚悟を決めて店に出向いたものだ

「おるおる」
「おれらー、この前お釣りが間違えちょったけんど、よー言わんかったぞ」
「わー、こっち見ゆーぞ!」

取り立てて用もないのに
恐いもの見たさ
その頑固親父と視線が合ったら走って逃げることが
一時僕らのトレンディーとなった

今はもう
その爺さんがどうなっているのか
消息も知らないが
いつの日か僕も
『昭和生まれの頑固親父』
と呼ばれるような
気骨ある人生を送ってみたい


 


   彼岸桜
         森 公宏

思わぬ雨
今日の予定のテニスは中止

恨めしげに見上げる鈍色の空
しっとりと滴を垂らした
彼岸桜が目に入る

淡いピンク

そんなに派手ではないはずの固有色が
空の鈍色をバックに浮き上がる

季節は着実に歩んでいたのだ

三寒四温
一雨ごとに春の兆し



   財産
          森 公宏

せっかくなら良い仕事をしたい
みんなが少しでも
喜んでくれるように

世の中の地位や名誉、財産なんて
そんなに大したものじゃない
僕らの一生に比べればね

でも僕はチャンスを探している

今はまだ見つけられないでいるけど
きっといつか見つかるはずさ
僕がかつて君を見つけたように

いつもは照れくさくって言えないけど
本当は君には心から感謝してる
君と出会えたこの『退屈な世の中』にもね

僕にとって一番の財産は
お気に入りのパソコンや
よく走る車なんかじゃなく

僕の周りに居てくれる
君を含めた
気のいい連中なんだ

『いつも僕の側に居てくれてありがとう』


 


   私の子
            宮本泰子

あれしなさい
これをして
頼んでも
動こうともしない子

私から生まれて
私が育てたのに
何故私の言う事を聞かないの

あの子は私から産まれ出た時から
私の所有物ではなくなった



   春の風
            宮本泰子

前後の事です
姉妹は家計を助けようと
リュックサックに履き物を詰め
売りに行きました

農家のおばさんが
「若いのに偉いね 又今度ね」
別の家でも
「親はいないの 可哀想にね」
同情してくれるけれど買ってくれません

姉妹はお腹が空いていました
土手に腰を掛けて
茅花を見つけて口に入れました
舌に纏わって味はしませんでした
空腹も充たされませんでした
好みの履き物が無いとは気が付きません
子供だと馬鹿にしているのだと
買ってくれない人を恨みました
「家へ帰ろう」姉の声に
そうだ帰る家がある 母がいる
さっき迄冷たく感じていた風が
その時春の風に変わりました


 


   鏡の中の私
            宮本泰子

鏡に映ったわたしの顔は
母そっくりだ
母に会いたくなったら
鏡を見れば良いと思った

鏡に向かって話しかけたが
私を包み込んではくれない
鏡の中のわたしは
誰を包み込んでいるのだろう

やはり私の母ではない
母の化身でもない