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第3回目 ライナーのワーグナー・「マイスタージンガー」前奏曲

☆このコーナーはライナー以外の演奏を取り上げるようにしていくつもりであるが、今回に限って彼の「マイスタージンガー」前奏曲を取り上げることにする。彼のいくつかある同曲異演の中でこの曲を選んだ理由は、幸いにも彼のさまざまな時期・ポジションのおいての演奏が存在する数少ない曲だからである。ライナーの同曲異演のコーナーを設けて専属でいろいろ彼の演奏を取り上げたいのであるが、今のところその予定と時間がないため、ここで紹介する。


38/11/22 ニューヨーク・フィルハーモニック (8'56")
Dante ; CD LYS-083(Reiner Enregistrements 2)
Grammofono ; AB-78711/12(Fritz Reiner Album 1939-1946)

41/01/09 ピッツバーグ交響楽団 (8'29")
Dante ; CD LYS-044/45(Reiner Enregistrements 1)

52/03/22 メトロポリタン歌劇場管弦楽団(10'01")(全曲より)
Dante(Arlecchino) ; CD ARL-A-40/43(The Art of Fritz Reiner 6)

55/11/14 ウィーン国立歌劇場管弦楽団(9'13")(全曲より)
Melodram ; CDM-47083

59/04/18 シカゴ交響楽団(9'55")
RCA(BMG) ; CD 4738,61792(Reiner Collection)



大変意外なことかもしれないが、彼の同曲異演が最大数あるものはこの曲(おそらく)で、何と上記のように5種類も現在入手可能なのである。それぞれ彼のいた立場が異なるので、それを前提に話しをすすめることにする。

1は彼の最初のレコーディングである。ワーグナーとドビュッシーを2曲ずつ録音したので同時期のレコーディングは他に3点ある。さっそうとしていてとても聴きやすく、堂々としている名演。SP以来どうして復刻されなかったのか不思議なくらいである。しかし後年の演奏に比べると幾分個性は薄い。トスカニ−ニの影響を強かった当時のアメリカの風潮を受けた演奏というべきか。

2は手兵であり、約10年間常任指揮者を努めたピッツバーグ交響楽団とのもの。しかも録音時期は1より約2年位しか経っていない。コロンビアへのこのオケとの録音が始まった頃のものであるから、彼はいち早くこの曲を取り上げたことになる。一聴してみると1に比べ録音のせいか管弦楽に厚みがある。さすがに演奏はさらに厳しいもので、当時のこのオケのアンサンブルを駆使しての演奏。相当「シボられた」のではと思ってしまう。性急なテンポと引き締まった造形は当時のコワいライナーの姿を反映しているかのよう。

3は49年より約5年間努めたメトロポリタン歌劇場オケとの全曲録音のもの。録音テープの劣化のせいかピッチがかなり低い。そのせいもあり、テンポや威圧感は3の演奏とはかなり異なった印象を受け、ゆったりとしたテンポの中にどこか深みのある慎重なものになっている。オケのアンサンブルはあまりよくなく、1.2の演奏と比べるとまるでぶっつけ本番のような印象があるが、後年のライナーの重量感が出ている演奏である。

4は55年ウィーン国立歌劇場が再建された時、彼が招かれて指揮した記念碑的な演奏である。この歴史的演奏が復刻されたことを感謝すると同時に、できればオリジナル音源の登場を心から願いたい演奏である。5つの中で唯一のヨーロッパ録音であり、さすがにオケの音色は柔軟でしなやかである。しかし、前奏曲を聴くと全体的にライナーの統率力が隅々まで行き届いていない印象をうける。アンサンブルも薄い。当時のライナーの芸術を最大限に表現できるのはやはりシカゴ交響楽団であったのかもしれない。もっともオリジナル音源がもし存在していればまた違った印象を受けるかもしれないが。

5はシカゴ交響楽団との全盛期に録音されたもの。彼のシカゴ時代の録音は57-9年に最も多く、録音の良さとあいまって実に輝かしい記録が多い。このワーグナー集はその代表盤の一つといえるだろう。それにしてもこの冒頭部の輝かしさはどうであろう!そのスケールの大きさと、確信に満ちたテンポはまさにこのオケと理想的は時代を築いたライナーの自信がうかがえ、過去の4つの演奏の総決算というにふさわしい。




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