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第4回目 アンダのブラームス・ピアノ協奏曲第2番

☆最近、一連のCD化で注目され始めたハンガリーの名ピアニスト、ゲサ・アンダの独奏したブラームスのピアノ協奏曲第2番を取り上げることにした。LP時代に知られたグラモフォンの2つの録音に加えて、CDで復刻された2種のライブを加えて、現在は5種の演奏が知られている。


54/04/05(L) クレンペラー指揮ケルン放送O(I:16'14",II:8'07",III:10'53",IV:8'53")
輸入盤ARKADIA CDGI733.1

60/05/09-12 フリッチャイ指揮ベルリンPO(I:18'42",II:9'14",III:12'05",IV:9'34")
Po POCG3078

62/10/18(L) クーベリック指揮バイエルン放送O(I:17'18",II:8'42",III:11'12",IV:9'08")
輸入盤Orfeo C271 921B

67/09/18-20 カラヤン指揮ベルリンPO(I:17'36",II:9'01",III:12'37",IV:9'45")
Po POCG3438

68/09/28(L) カラヤン指揮ベルリンPO(I:17'59",II:9'17",III:12'54",IV:9'17")
輸入盤ARKADIA CDGI740.3


ゲザ・アンダというピアニスト、私はあまり知らなかったのだが、指揮兼任で録音していたモーツァルトのピアノ協奏曲で大変堅実な演奏をしていた記憶がある。LP時代に廉価盤で分売され何枚かをよく聴いていた。私のこのピアニストへの興味は以来止まったままであったが、ここで「ブラコン2番」を対象に彼の演奏を聴き比べた。

1.は音質が意外と聴きやすい。アンダのタッチはやはり後年の演奏に比べ若々しく、フレッシュである。それと聴きものは颯爽としたクレンペラーの手堅い伴奏ぶり。演奏時間で比較してもわかるように結構速めのテンポで要所要所ときっちりと締め、コシのある、立派なサポートぶりだ。アンダもその信頼ある伴奏に乗って落ち着いた弾きぶりを展開。しかしケルン放送SOは後半緊張感が若干落ちてくるようにも聴こえる。

2.は同じハンガリー出身の指揮者、フリッチャイとの共演。オケの序奏から実に手堅い伴奏ぶり。明るく温かいサポート。アンダも心地よさそうにのびのびと弾いているようだ。同郷同士の共演での同曲の名演はポリーニとアバド(ウィーンPOの旧盤)の演奏があるが、ここに聴かれる良さはまたちがった、洗練はされていないが武骨でありながらも手作りの味わいのようなものがある。1.とは対照的に遅めのテンポでじっくりと聴かせてくれる。LP時代に小生はこの演奏を愛聴していたのだが、CDでは音質が変わってしまったようで、何か生々しく聴こえてしまう。

3.はライブ録音で再評価されてきているクーベリックの伴奏が大変見事。重厚で手堅く、とても頼もしい。クーベリックらしい上質でコクのある伴奏ぶり。アンダもその信頼されたサポートに乗って、正攻法というべきか、この曲のあるがままの姿を表現しているよう。全体として体型が整っており、充実している。第2楽章のように白熱している展開なども見せ、ライブならではの臨場感もある。モノラル録音なのがかえすがえすも惜しい。第1番も録音していてくれたら...と思ってしまった。(こういう上質の演奏をしてくれるから、クーベリックのライブ録音を見掛けたら私は即購入してしまうのだ...)

4.は1.のフリッチャイとの最初のスタジオ録音から約7年後の再録音。同じベルリンPOながら今回はカラヤンとの共演。以前の2つの演奏と比べてみて、まずベルリンPOの変貌ぶり、そしてカラヤンの伴奏がすごい。冒頭のホルンからしての豊満な響き。分厚い管弦楽の渦。伴奏というより、ピアノと管弦楽の交響曲のよう。グラモフォンのカラヤン/ベルリンPOの一連の録音は録り方が独特で、レガートの上に内声が実によく聞こえ、水量の多い大河のようである。このバランスは好みの別れることだろう(モーツァルトの交響曲などはさすがに閉口ものだった...)。アンダも対等に、このスケールに負けじと以前の演奏にはなかったスケールの大きな独奏ぶりである。1.と聴き比べてみてもピアノ・ソロに余裕が出てきているのが良く判る。アンダ自身が再録音を希望していたかどうか不明であるが、もしそうなら納得もできる。録音の良さもあって、この演奏はカラヤン美学の中で一つの境地を作り上げている。67年の演奏ながら、もうすでに70年代後半のカラヤンのような印象さえある。

5.は3との同じコンビによるライブ録音。68年9月に行われたブラームス・チクルスの実況録音。交響曲全4曲との組み合わせでのCD3枚組セット。このシリーズは同時期のバルビローリなどのライブは音質が悪くて楽しめなかったが、この演奏は一応ステレオ録音で問題なく鑑賞できる。しかしさすがに3とのスタジオ録音に比べると音質は落ちる。カラヤンとのコンビなら音質からいってもまず3.と採るであろう。しかし、アンダの独奏ぶりは堂に入ったというか、オケの伴奏とよく溶け合っていると思う。3のようなベルリンPOの分厚い管弦楽が前面に出るような録音ではないので音楽自体が自然で聴きやすい。それでもやはりカラヤン/ベルリンPOの伴奏は分厚くて情報量が多い。
なお、アンダのブラ2はこの他にも50年代のカラヤンとのライブのLPも発売されていた。


一連のアンダの録音を聴いてみて、まず思ったことは技術面ではさほどの差はないと思うが、後年になるにつれて演奏に円熟味を増してきていると思う。それぞれ独自の味わいがあり、5種のうち甲乙は本当につけ難い。ピアノ重点ならば4.か5.であるが、伴奏なら1.3.そして2.の方が聴きやすいかも。音質ではスタジオ録音である3.そして1.か。より彼の他の曲を聴いてみたくなった。




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