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第5回目 ジュリーニの「田園」

☆小生がもう20年以上親しんできたジュリーニの「田園」。たっぷりとしたテンポの中にもクドさや重さはなく、スケールこそ大きくはないがすがすがしさが感じられる。ジュリーニ独特の感性が生きた名演である。最近CD化されたライブを加えて、現在では4種の演奏が知られている。


68 ニュー・フィルハーモニアO(I:10'35",II:13'45",III-V:20'05")
輸入盤Royal Classics ROY 6403

79/11/20-1 ロスアンジェルスPO(I:10'35",II:13'21",III:5'33",IV:3'57",V:10'30")
Po POCG3179

91/09/27-30 ミラノ・スカラ座PO(I:11'04",II:13'51",III:6'22",IV:4'22",V:10'56")
Sony SRCR9505

88-91?(L) ベルリンPO(I:10'57",II:13'13",III:6'10",IV:4'06",V:10'59")
輸入盤HALLOD HAL-05-6


ジュリーニは60年代後半から70年代にかけて、3つのオーケストラとEMIにベートーベンの交響曲6-9番を録音している。さらにその後、ロス・フィル常任時代の70年代から80年代にかけて3,5,6番、ベルリンPOとの9番、そしてスカラ座POとの全集録音開始ということになるのであるが、6番は唯一その都度録音を重ねてきた曲である。演奏はどれも大変優れたものでジュリーニの資質とよく合っている。雄大な大地というより美しい風景画を見るような思いがする。

1.は小生が高校生の頃、シカゴSOとの「ベト7」と共にやっとの思いで入手し、以来ずっと愛聴し続けた名盤である。国内盤は一度確かウィーン交響楽団の来日記念盤として出たきり廃盤になってしまっていた。ジュリーニの名が知られるようになったのは彼とシカゴSOとの一連のレコードがグラモフォンから続々と発売されるようになってからではないかと思う。マーラーの9番や新世界、シューベルトの「グレイト」など「交響曲第9番」の名演奏と、あのやさしそうで知的な顔立ちのジャケットが印象的であった。この最初の「田園」はそれより約10年位前の演奏で、早くも彼の感性豊かなセンスが生かされている。存在すらあまり知られていないこの演奏を小生は数ある「田園」の最も優れた演奏に挙げてきたが、今聴いても清新ですがすがしさは損なわれてはいない。そして彼との付き合いの長いニューフィルハーモニアOの美しい音色がそれをより価値あるものにしている。これがクレンペラーの時代のこのオケなのだろうかと疑ってしまいたくなるほどである。その特色が最も生かされているのが第2楽章で、これを聴いてしまうと10-11分台でこの楽章を突っ走ってしまう大半の演奏が許せない気持ちになってしまう(モントゥーは例外として)程、 落ち着いたテンポで実に丹念に歌われている。ベームとウィーンPOでさえ実現できなかった爽やかさがあり、味わいのある調べである。Royal ClassicsでのCD化を大いに喜びたい。

2.は彼がロス・フィルの常任に迎えられていた時代の一連の録音である。第1弾として出た「エロイカ」は当時大評判になったが、グラモフォンから彼の演奏が当時続々と発売されていた中で誰もがその「変化」を感じ始めていたのではないだろうか。彼の音楽作りはより個性的になり、以前の彼の特徴であったすがすがしさからコクのようなものが出てきたように記憶している。この「田園」は1.の演奏とテンポ・解釈と基本的には殆ど変わりはない。敢えて1.との大きな差を言うなら、各楽章のしなやかさと丁寧さは相変わらず健在であるが、コクが出た分、清新さが損なわれたような気がする。ロス・フィルの管弦楽からは1.にはあったあの上質の、美しい音色は聴かれなかったのが残念である。

3.はスカラ座POとのベートーベン全集の第3弾。老境に入ったジュリーニの感性が生きた「田園」。丁寧な作りはより徹底され、テンポは全体的に遅くなり、その作りもより深いものになっている。スカラ座POも老ジュリーニの棒に懸命に応えているかのよう。大変美しいし、長年ジュリーニの「田園」に親しんできた小生にとってはこの上ない福音であるが、欲を言うと、その音楽作りに1.にあった「さりげなさ」のようなものがなくなっているような気がする。「ほのかに聴こえる」というより「当然聴こえる」というような...これも深さの表現の難しさなのだろうか?録音の良さもあって細部までオケの音色が聴こえる。後半の楽章は噛みしめるようなスローテンポで賛否が分かれることだろう。

4.は比較的最近になって登場したベルリンPOとのライブ録音。音質はとても聴きやすいし比較的鮮明である。はっきりした録音年月のデータは知らないが、おそらく3.の前後であろう。基本的には3.とほとんど変わりはない。ただベルリンPOのしっかりしたオケのバランスと音符を刻む正確さに優秀な手腕がよく聴き取れる。どちらかというと、このコンビのスタジオ録音のモーツァルトもそうであったが、ジュリーニの遅いテンポに緩みがちなバランスがベルリンPOならではのコシの効いた管弦楽がしっかりサポートしているので音楽がハリを持っているような印象がある。第4楽章などさすがによくオケが鳴っている。


ベートーベンの交響曲の中では「田園」はジュリーニに一番最適な曲なのではないだろうか?4つの演奏に総じて言えることは基本的には違いはなく、単にテンポが遅いというより、彼ならではの感性がとても生かされていると言う点である。他の演奏からは得られない独特の詩情がある。




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