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第6回目 バーンスタインのマーラー・交響曲5番

☆小生にとってバーンスタインを聴くようになったのはグラモフォンからウィーンPOとの一連の録音が出てからであった。それまではあまり聴くことがなかったのである。モーツァルトはもちろん、ベートーベンにしろ、ブラームスにしろNY時代の録音は受け入れることのできない独特のコクみたいのがあって、小生のコレクションになることがあまりなかった。しかし、マーラーだけはとても好きで、始めて聴いたニューヨーク・フィルとの「巨人」は今でも小生の愛聴盤のひとつである。今回、小生はたまたまレコード店で聴いたFirst Classicsの「第5」にびっくりし、バーンスタインの「マラ5」の同曲異演と聴くことになった。


63/1/7 ニューヨークPO(I:12'30",II:14'20",III:17'44",IV:11'00",V:13'47")
CBS SMK47580

80年代後半(L) ウィーンPO(I:14'05",II:12'00",III:18'57",IV:11'31",V:15'27")
Hallo HAL31-2

87/8/30(L) ウィーンPO(I:14'07",II:14'30",III:18'28",IV:11'16",V:15'03")
First Classics FC119

87/9(L) ウィーンPO(I:14'32",II:14'59",III:19'02",IV:11'13",V:15'00")
DG 423 608-2


上記のデータを見てもわかるように、最初のニューヨークPOとの演奏1つと、その約20年後の80年代後半のウィーンPOの3つに別れてしまう。後者の演奏はどれも同時期で、これではあまり比較にならないのではないか思われるのも当然であるが、ウィーンPOとの2点はプライベート盤であるので、正規盤との内容の比較をするということでも決して無意味ではないと思う。

1.のニューヨーク・フィルとの演奏は63年の演奏。小生はいつもバーンスタインとこのオケの演奏を聴く度に思うことであるが、演奏としていささかキメが粗い。それは録音のせいもあるのだろう。当時はマーラー指揮者は現在のようにはいなかったこともあり、この演奏をよく聴いたものであるが、颯爽としているが現在改めて聴いてみると、この演奏の存在感がずいぶん薄いものになってしまったことをつくづく感じた。なかなかの熱演なのであるが。

2.は80年代後半のものだろうであるが、こういう録音の新しいプライヴェート盤はデータ表示してもらいたいものだ。同曲異演かもしれないということを買い手に誘うやり方はイヤらしいと思う。この演奏は3.4.と同時期の演奏と思われるが、他の演奏とは異なるものと思われる。基本的には2.3.4.は変わらないのでどれも名演奏。2.は音質はオケと若干距離があるようだがとてもよく、聴きやすい。演奏は3ほど白熱していないが、その分整っており、なかなかの名演奏ぶり。全体のバランスはとてもいい。3.は別格としても4.と比べるとこちらの方が若干いいかも。バーンスタインのアプローチは個性的には違いないのだが、クセを感じさせない説得力がすごい。フレーズの各楽章の一つ一つのフレーズが自然に当たり前のように体内に入ってくる。

3.は確かロンドンでのライブ録音と聞いている。小生は池袋のCD店でこの演奏が流れているのを頭から終結部までじっと立ったまま聴いておどろき、即CDを持ってレジへ行ってしまったのである。
第1楽章から他の3つの演奏よりそのテンションの高さに驚く。2-4の演奏は基本的には変わらないのであるが、この演奏は特に濃厚な表現だ。2.に比べ録り方がオケに接近しており、より生々しい。第1楽章から音楽は弛まなく流れ、そして熱い。不自然なところはなく、まるで操られているかのように順当な方法でクライマックスへ行く。そして聴き手に深い感動を与える。これぞバーンスタインの至芸ではないだろうか。きれいなところはきれいと言い、激しいところは激しくやっている。その分、管楽器のミスやオケがバランスを崩してしまっている箇所さえある。特に最終楽章などはこれでは公式録音とまではいかないだろう。しかし、とても感動的で、他のウィーンPO盤が薄れてしまうほどだ。

4.は3とほぼ同時期の、フランクフルトでのライブ録音。総合的に見て、バランスはとてもよく、うまく、レコード録音として優秀な演奏である。一般にはこれが薦められるだろう。しかし、3の強烈な終結部を聴いてしまうと、これは借りてきた猫のような印象を持ってしまうが...いや、これが公式録音なのだ。全体的にほどよく整備されているし、臨場感も失ってはいない。

なお、他にANF LCB-108というCDが存在しているが、どうやら、3の演奏と同一ではないだろうか。とてもよく似ているが、音質は比較にならないほど悪い。今回は比較の対象外とした。またウィーンPOとは70年代のレーザーディスクでの演奏もある。


小生にとってはショルティの70年録音が入門であった「マラ5」。その後バーンスタインのNY盤なども愛聴してきた。不思議なもので、昔感動して聴いていた演奏がふやけてしまうことがある。今回はその現象を感じると共に、少しばかり残念な思いもした。しかしバーンスタイン&ウィーンPOの「マラ5」は小生の現在の教科書である。




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