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第7回目 クナッパーツブッシュのベートーベン・交響曲8番

☆クナッパーツブッシュは、一連のCD復刻でそれまで未知であったレパートリーが発見されて大変興味のある指揮者である。LP時代、彼のブルックナーの第7番やブラームスの交響曲が発売された時、それまでレコードで聴くことのなかったレパートリの発売に驚き、発売日を待って一目散にレコード店へ行ったのを今でも覚えている。ハイドンや88番や94番、ベト2と並んで、ベト8は彼の演奏の中でももっともユニークなものの部類ではないだろうか?


52/1/29(L) ベルリンPO(I:9'54",II:4'16",III:5'18",IV:8'01")
King KICC-2160

56/10/18(L) ミュンヘンPO(I:10'59",II:4'38",III:5'20",IV:9'22")
輸入盤Erimitage 157

59/12/14(L) バイエルン国立O(I:9'40",II:4'13",III:4'51",IV:8'11")
King KICC-2357

60/3/14(L) 北ドイツ放送SO(I:11'34",II:5'03",III:5'50",IV:9'30")
King KICC-2028


上記のデータを見てもわかるように、わずか8年足らずの間に4つの演奏が復刻されている。いかにクナッパーツブッシュの人気度が高いか理解できるというものであろうが、やはり頻繁に取り上げていた曲目であることは確かのようである。

1.はフルトヴェングラー存命中のベルリンPOとの共演。例によって冒頭部やアインザッツのずれなどがあるものの、オケの影響もあるのか、全体的には4つの中では響きが最も引き締まっており、格調高くてコシがある。第1楽章などが良い例であるが、全体的には曲が進むにつれてテンポもあがり、なかなかホットな演奏になっている。4つの中ではもっとも張りのある演奏というべきか。しかし、第3楽章のトリオなどのように、ほのぼのとした牧歌的な雰囲気がとてもいい。この箇所はこの演奏がもっとも徹底されクナらしいと思う。

2.のミュンヘン・フィルとの演奏はその完成度においてなかなかの出来栄えをみせている。まずオケが整然な反応を示している。リハーサルをする時間が充分あり、それなりに納得するレベルまでやった、そんな演奏である。それともミュンヘンのメンバーは彼の意図を深く理解していたのだろうか。演奏もなかなか充実していて、音質もとても聴きやすい。「ぶっつけ本番」「デフォルメの極致」的イメージは幾分損なわれている分スリリングさは薄いが、安定した演奏である。

3.はバイエルン国立Oとの演奏もある意味では一般的には最もクナッパーツブッシュらしい演奏ではないだろうか。各楽章とも冒頭部は例によって気乗りのしない開始に始まるが、次第にエンジンがかかってきて、いい盛り上がりを形成している。そういう意味ではベルリン盤に似ているが、やはりオケの張りが違う。このオケもある意味では彼の意図を理解していたのだろう。なかなか充実した演奏を繰り広げている。ミュンヘンとの演奏ほど整然としているわけではないが、4つの中ではいい意味での彼らしさ出ていて、ノっている演奏だと思う。

4.はLP時代から有名であった北ドイツ放送SOとの録音。CD国内盤初出の時、レコ芸で当時交響曲評担当であった諸井誠氏が「死ぬほと遅い"第8"だ」と書いておられたのを思い出す。ほとんど「ぶっつけ本番」的演奏を思わせる。北ドイツ放送SOはクナの棒に慣れ親しんできていなかったのか、そんなこともないであろうが、奏者側の動揺している様子が見えてきそうである。他の3つと比べても最初から最後までテンションはほとんど変わらず、よくもここまで一貫してやれたな、感心してしまう。クナッパーツブッシュの醍醐味を知る上で必須の演奏だろう。小生はこの演奏に親しんできたせいか、クナッパーツブッシュらしい、というとこの演奏になってしまうのである。しかし、3つ目のバイエルン盤よりたった3ヶ月しか経っていないのに、全体的なテンションはずいぶんちがうのである。


今回は、一部では現在入手不可能な演奏もある4つの演奏を聴き、クナッパーツブッシュの独特のアプローチが楽しめた。ミュンヘン・フィルとの整然とした演奏。北ドイツSOとのデフォルメの極致的演奏。両者の間に他の2つの演奏が位置するようにも思える。




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