今月へ

2010/3

[詩 月の瞳]





   月の瞳             

                       北爪満喜

 

眠りの足りない瞼で
月があればいいなと街角の空を見あげた

葉を落とした街路樹の上
雑居ビルがひしめく間に
細く長く青空が見え

あった 白い昼の月
青空の高いところから 
私を見下ろしてくれている

知っていた 真昼にも月が見えること

今日の月はあまりに淡く 
青空へ消え入りそうだから
そこにいる という証しに
白く浮かぶ月のまわりへ
てんてんと丸くミシン目のように
切り取り線を入れておく

夜になって
また疲れて 駅から家までを歩くとき
たぶん首をくたっと落として
胸にいばらを抱えていたら
くたっとする首を仰向かせ
こんどは夜の月を探す
くっきりとこちらを見つめる月を

けれどもひどく辛かった今日は
輝く月が強く遠く
突き放されて 見つめられない 

真昼の月を呼び寄せる
囲んでおいたミシン目をてんてんと丸く切り取って
夜の月の上にはる

たくさんのふりをやってのけた
目の奥の濁った沼の上に
真昼の月をのぼらせる

さざ波立って震える沼は
月の瞳に照らされて
ゆっくりと 
薄い今日を飲む



[咲いたままで]


3月21日
 朝。雨と風のあと、まるで枝に咲いたままの花で、落ちている。
土と光に分解してゆく。
 
 吉田秋生の新作『陽のあたる坂道』がでた。待ち遠しかったのですぐに
読んでしまった。

 先日、品川まで肩の治療に行って、その流れで、有楽町から
出光美術館へ。柏木麻理さんが初企画した『麗しのうつわ』展をみました。明日までです。
器ですが、入ってすぐに展示されていたのは、和歌の書かれた角皿がずらり。
読むのは和歌。
 かささぎの渡せる橋に おく霜の 白きをみれば 夜ぞふけにける     中納言家持
 これやこの 行くも帰るも わかれては しるもしらぬも 逢坂の関    蝉丸
 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに 小野小町

詩人としてのまなざし色濃く、企画されていて、大変刺激的でした。
器、物、というところからたくさんの窓が開いていて、使う世界、眺める世界、
手に取る世界、そして文学へと開いた窓から、さまざまなものを呼吸できて
自由な感じがして、いつもなら圧倒される物の展示なのに、入り込みやすく
疲れませんでした。

 

  芦田みゆきさん。水嶋きょうこさん。
 お忙しいなか通路の詩と写真展file6、を見てくださって感想をありがとうございました。
大変参考になりました。
 芦田さんも水嶋さんも路地の金魚の「いつもと違う道をゆく 出会ったのは 揺れるいのち」
を気に入ってくださっていた。歩いて出会うことは大切だと再び思いました。

 


[雨上がり]
 
3月10日
昼過ぎに小雨が上がった。道路には水溜まり。見ていると青空へ落ちてゆく。光の方へ。 
暗闇に覆われていると体が暗くなる。辛さで痛くなる。光を望むのは私だろうか体だろうか。


[記憶に溶け込む]

3月7日
気温の低い朝、光のなかでうつむいて咲く椿はいま記憶に溶け込むところ。


「もーあしび」の朗読会が5月29日に決まりました。
新宿眼科画廊です。

山田消児さんの評論『短歌が人を騙すとき』を読んでいて、
作者と作品中の「私」の関係が、短歌では通常作者本人と結びつけて読まれ
ているということを知る。作品の「私」=作者と読まれてしまうのは、苦しいこと
ではないだろうか。フィクションとしての「私」、を短歌に取り入れてまもない
ようすは、穂村弘論に詳しくある。



[鑑賞者に感謝]
3月4日
うつうつとしていました。この一枚という写真がみつけてもみつけても
見つからないのです。CDやDVDを何枚開いても、肩がまた痛くなっても。
ためしにプリントしたら、各色のインクが一つずつどんどん終わって
買いにいったら近くになくて、渋谷のビックカメラまでゆくはめに。
とても高い。高いです。10年使ったプリンターが壊れて新しいのを
購入したのですがこんなにランニングコストがかかるなんて。絶句です。
ある色は渋谷になくて、新宿のビックカメラへいってやっとありました。
時間もかかる。うー。
そんなとき、
ミクシィ経由で知りました。マイミクのゆういちさんが通路の詩と写真展を
見にいってくれたとき、ちょうど先客がいて40代くらいの女性が見ていた
ということです。すると何を見ているのかと30代くらいのカップルが加わって
一つ一つ見ていってくれたということです。励みになります。
ゆういちさんは「いつか見た夢のように 水のなかを滑ってゆく」を
気に入ってくださった。ありがとうございました。


お知らせ
・土曜美術社『詩と思想』3月号、巻頭詩に私の詩「写真」が載りました。
これは特集「百科詩典」とういテーマで名詞のタイトルをつけて
詩を書くということを100人が行った特集です。
書店でみかけたら、お手に取ってみてください。

・野木京子さん達の詩誌『スーハ!』6号の特集「私の街角」に写真とエッセイで
参加しました。同人もゲストもみな自分で取った街角の写真を載せ、エッセイを
書いてます。特別な街角はみな記憶と深く結びついているのが発見でした。