今月へ

2013年11月分

[お知らせ/詩「トムの写真」]

11月28日
『現代詩手帖』の「現代詩年鑑号2014」に詩誌展望を書きました。
今回は中堅女性の個々の詩集についてです。ご覧いただければ嬉しいです。
また今年度の収穫のアンケートにも答えてます。

アンケートの本年度の特に印象に残った詩で、岩佐なおさんが「モーアシビ」の詩「鏡面」を
あげてくれました。また杉本徹さんが「モーアシビ」の詩「奇妙な祝福」をあげてくれました。
そして小川三郎さんがミクシィ日記で書いた詩「トムの写真」をあげてくれました。
岩佐さん、杉本さん、小川さん、ありがとうございます。

ミクシィ日記なので、あらためてこちにら詩を掲載します。


  「トムの写真」


薄く開いたままの窓から吹き込んだ雨が
本を濡らして 紙を濡らして 段ボール箱を濡らした

ふやけて柔らかくなった段ボールを開くと
入っていた
古い写真

皺になった封筒を覗く
ばらばらの写真が何十枚も入っていて 
たった一枚 トムが映っている

もうない温室や納屋の間の白く乾いた土の小道に
こちらを向いて首をかしげる犬のトム
小さく映ってとても小さい

トムトム
呼べば私へ走ってきそうに
こちらを見ている

黒い耳を立て ふさふさの黒い尾をあげ
白い襟巻きを巻いたみたいな首元
トムのふさふさの毛に指をいれ
トムの首や頭を撫でたい

手の中のトム

トムはいる
両手の中に
いまもいる
だらんを尾を垂れ
口から血を流し
ぐったりした重い体を
抱いて帰った
車に轢かれ 国道の端に横たわっていたトムを
連れてきた
近くを通った近所の人がトムが倒れていると知らせてくれたから

まだ生きている
息があるトム
家へ連れてかえらなくては 家へ

庭の隅で
犬小屋で
意識が戻って
家のそこで静かに寝かせていた

目が開いて 頭が上がって
元気になったように見えた
けれど
歩かなかった
水をあげた
食べるものをなにかあげた

元気なにったわけはないよね
なんとか生きていられただけだね
いまならわかる
なぜわからなかったのか

きっとどこかが痛かった 苦しかった
頭をあげて顔を見てくれたから
元気になると 治ると思ってしまったいた

何日か生きて
死んでしまった

世話をしていたのは私ではなかった
私は かわいがっていただけ
遊んだだけ
トムに気に入ってもらっていただけ

トムと私は
まじりけなく
家に寝起きして いる 犬と子どもだった
まじりけなく 家の 犬と子どもだった 







[失われた花が咲いている]













11月22日

  「失われた花が咲いている」


失われた花たちが
激しい日の光のなかで
透明に咲いている

風のなかの見えないクロッカス
ヒヤシンス スイセン グラジオラス マーガレット
ヤグルマソウ コスモス キキョウ クリスマスローズ

その庭と家のなかで
味方は植物しかいなかったあなたの手が
増やしていった花々
帰郷するこどに はじめて見る花があって
ほーっと息を吐き 溝をまたいだ
たぶんレースフラワーがはじめてのとき
おばあちゃんのお葬式を
畳の部屋をつないで挙げ
家の中へ冷たい風が 吹きつけ
吹き込み 吹き抜けていた


垣根を囲み 家を囲み 納屋を囲み
草花は揺れ
あなたを守る結界のように囲み咲き
毎年枯れ朽ち
その時だけに繋がっている


椿は
語られる花だった 
祖先から 椿は好きだったのだと
生け垣の斑入り赤
荒神様の大きな赤
好きだけれど

繋がっているのは
祖先ではないかもしれない

風のなかの見えないクロッカス
ヒヤシンス スイセン グラジオラス マーガレット
ヤグルマソウ コスモス キキョウ クリスマスローズ
その時どきの話した人 話した事 関わった人
関わった事

失われた花が咲いている






[水流]







11月20日

水流に 空は細い糸になって寄り合わされている
汚染されているのがわからない草は緑に光って
澄んだ川の水の縁を 白サギが羽ばたく
風を切って飛ぶ注ェのベクレル
日光の下で白く白く輝く 白サギが踊る
橋の橋脚はうっすらとふくらみを持ち
赤や黄やブルーのスプレーで粗く塗られ
グレーと黒で読めない文字の落書
くさを刈る影が上げる機械音ががなり

止めば静かな川
聞こえないように
水を歩く白サギの細くのびる首すじのカーブに時間をつなぐ