ホームへ



みずうみ 

       
エレベーターで登りつくと
屋上に 
みずうみは広がっていた


さらさらと乾いた砂の上を
みずうみへ向かって歩いてゆけば
くぼんで  私の足のしるしが
白い砂に付いてゆく


私は
両目のくぼみのあたりが
花ように
紫に なっていたなら 痣があれば
にじんでいれば いいと思う


立ち止まって
首をかしげ
爪先をたてて片足を
岸の砂へ差し込んだ
首をかしげ たたずむ私は
岸の白い砂に刺さった一本の細い茎になる


紫の花の中心の目を
開けつづけていられるならば
みずのとおる茎があって
からだの水茎をとおって 瞳へ
みずうみの水がながれこむ


茎をとおってのぼってくる私の水はどんな味 
ながれこむ水はどんな味


みずうみの果ては
透き通る青い空だと思っていた
けれど空を覆っていたのは
青に白の濁り混じった
脈打ちそうな空だった


濁らせる空の
あの白は
動物のミルクを粉にして売られる白に
似てるから
お湯で溶いて混ぜたから
私は両目を閉じてしまった


みずうみの水はのぼってこない


目を閉じてみえないはずなのに
澄んだ水に 紫の
花が二輪映っている
あたりにおおきくひろがって


ここは
屋上だな と思う


建物の
暗い振動を  つたわって
私 が登ってくる