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水の中の風景   
         
公園の石のタイルの池で 白く泡立ち
吹きあがっては ちりぢりに
ちぎれ落ちる水
昇る水が落ちてくる 頂は
見ているのに解らない

吹きあがる水は一瞬止まり 輪郭の力を抜くように
ばしゃばしゃと塊で落ちてくる

歩いて公園通りに出ると
目の高さにもう水がなかった
 水がないな
上げた目に
写真店のショーウインドゥの写真がてかりと光を放った
ひときわ大きくプリントされた家族写真の父親母親 子どもが
ひとり 母親の腕の中にい抱かれている
見てみいても知らない家族の流れは解らない
何も蘇ってこない
通りで知らない家族写真を見せられるのはどうも目障り

ざらざらな 石のタイルで覆う
石と水が作り出す、きれいだった
あの公園、
足元から石のタイルで覆うと 石から 水の音が上がった
ざざっと 噴水が沸き起こり
舗道の私を囲い込み 
光って 水の拍手が起こった

吹きあがる水
落ちる水
水の中に溶けていたのかショーウィンドゥの三人が
落ちる水の膜を分けそれぞれの役を
演じはじめた

       父親が母親に
   耳打ちすると
腕に子どもを抱えたまま母親は身をゆすり笑いだす 
父親がもっと耳打ちすると
母親は身を反らせ 大笑い
あまり笑って母親の抱えていた力が抜けて するり
腕から子どもが落ちた 子どもは頭からコンクリートに
打ちつけられて砕けてしまった
スイカのようにぐしゃりと鳴って 
水のなかへ戻ってしまった

水音が大きくなったかと思うと急に小さくなって
消えいるほどに弱くなり突然どっと噴きあがった

         父親母親が熱いまなざしで
母親の腕の子どもをみつめる
まっ白な肌と透明な 二つのつぶらなまん丸の目
頬や、額や、小さい鼻を指先でなんども撫でてると
ぽたぽたと雫が垂れはじめ
子どもの鼻がゆがみはじめた
頬が溶けだし
唇が崩れ  
雫をいっぱいに溜めながら 透明な目が
ずれながら 脇のほうえ逸れだしてゆく
子どもは結晶だったから 
凍てつく冬に庭に出て かき集めた雪だったから
温もりで 溶けだしてしまった

凍った霧の結晶は 
母親の腕からぽたぽた落ちて 大地や空へ
還ってゆく 
残された父 とくに母親の腕は
春や夏の予感のように 
冷たい雫に濡れながら 
軽くなり 解かれ 放たれてゆく

噴水の水が雑踏の靴音にしぶきをあびせだす

みつめすぎない目をして 私は
オフィス街を過ぎてゆく
住宅街も過ぎてゆく

水音 水しぶき わきあがる霧
霧が凍ったら 雪の
結晶 
 六角形  
  ヤグルマ   樹枝状 シリウス    幅広六花 セントポーリア
扇形    氷った霧の 透明

凍った霧の透明がみたい



        初出詩誌「エウメニデス」18号