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6月の池    北爪満喜     

                       

野菜を切り損ねて人差し指を切ったとき
ガーゼのハンカチーフで指を縛った
傷口を覆った白いガーゼへ 赤い滴がにじんで  
結び目のガーゼに花を咲かせた
私は
赤い水溜まり ゼラチン質の池

海月の形をしたい 
漂ってゆきたい
夢を二本の足へ繋ぐと
渇いて
花がみたくなる
6月の池の花菖蒲
水から立ち上がる茎に咲く 青く羽ばたくような花

花菖蒲園へ
電車を乗り継ぎ 幾つかの駅をすぎてから降りた
広い橋を渡って歩けば6月の花菖蒲の池がある 
歩いてゆくと橋の上は 人でごった返している 広場のない国のささやかな広場は
燦々と日差しに降られたまま さまざまな人々を照らしだす
リズムをつけて打楽器を鳴らす肌の黄色い外国人は お金を入れる箱を開け 汗をかき
歌い続けている 座り込みギターで弾き語る顔色の悪い日本の青年 生すぎる声が
尖るから 通りがかった人達を早足で去りたい気持ちにさせる
輪になって座りしゃべっているのは 変わったコスチュームの子どもたち
水彩絵の具で血の染みのように白衣を汚して着ている子 背の高いその子は顔がきれいだ
白いシャツの背に黒い羽根を背負っている細い男の子 女の子だろうかよくわからない
黒いフリルと黒いリボン黒く短いフレアースカート
黒づくめのアリスは黒いウサギのバッグを背負ってアイスを食べる 近くにいて
生々しい彼ら 折れた鳥の羽根のような 折れた鳥の羽根のような
折れた鳥の羽根のような

橋を渡って 門をくぐると 花に埋もれる池にでた
青い花が 茎の上 柔らかく群れ咲きそろう
知らなかった 一株ごとに花は名前をもっている
「湖の色」「雲の上」 
青い花の名を目で読むと
折れた鳥の羽根のような 赤い私の茎を伝って 名前が池へ落ちてゆく 
赤い池に落ちてゆく
落ちて赤い水から霧が 霧が青くたちのぼる
この霧を濃くそだてたら
青い霧は羽ばたいて
きっと 私を発ってゆく

ささやくように待っている 海の瞳へ
降ってゆく 潮になり波立ち 彷徨って
生々しくひるやよるをゆく