ホームへ



起点    北爪満喜 

もう立ち上がれない と震えている日ももう立ち上がれない と震えている日も
両手にデジタルカメラを載せて
伝わる重みに身を寄せて
バッグに携え 歩いてみる


体のなかで点滅しだすささやきは
カメラをonへ onへ
轟音の路も ビル街も 人の形の敵意や棘も
カメラを向けると液晶画面に 静止にちかく 光りゆらめく


地上の大気の流れのなかで像を結び映るこれが
なにかなんてわからないから
靴を履ける 歩いてゆける


河に架かったコンクリートの
橋の袂の薄い亀裂に 細い草が枝を広げる
猫避け用の水の入ったペットボトルが日差しに透けて
駐車場できらめいている 
上を向くと白い雲が白い水の煙となって青のなかに吹き消えている


指先へと 光がいっぱいになる
注がないではいられない
シャッターボタンへ吸い寄せられる 指の腹が
ボタンを押すと 
指の先で 堰が壊れ
光は
粗末な私を抜けて 光学機械を打ってゆく


なにかなんてわからない
たったいま
開く 輝きへ 


                * 初出 2001.8.4. CCD unit web collaborationの掲示板で皆さんに捧げました。