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wandering  olive 

                                北爪満喜


きょうは 一日自由にできる
信号が変わった
近くの駅まで いそぐ気持ちが踏み出すと
輝く信号の緑から
きらきらオリーブの実が成った
横断歩道を渡りきり
左右に耳を広げられた白いビニール袋をまたくど
こえる足の風にゆれ
薄くへこむ袋からオリーブの実が丸くあふれた
のびやかな気持ちはひさしぶり
のびやかな気持ちはオリーブへゆく
どこまでも遙かに波打ってゆくオリーブの丘をゆっくり照らす陽差しは
アンダルシアへと届く 
この気持ち
陽差しだったのだ
オリーブの実を食べるのも好き


束になって書類の言葉が立ちはだかる
あれが崖だった
人の間で高い崖に立ちはだかれて
選べない
書類には起きてみなければ そのことを認められるかなんて
決められないことが何箇条も連なってサインを求めいた
ぎりぎり もしもはみだせば
ゲームオーバー それでおしまい 
それでもサインをしなければ
進めない
これしかなかった


バッグに入れて持ち歩きすり切れていった雑誌には
銀色に葉裏を翻す陽差しを浴びるオリーブの
仰ぐほどの樹の写真
繰り返しページをひろげては
見ながら越えてゆこうとした

 
ドラッグストアーの前を過ぎると
横たわったビニール袋が死んだイカのようだった
考えてみる 
やめることももちろんできたゲームをはじめないことも
すると落下のゲームに移る 崖から落ちて潰れるゲーム


崖から落ちずにゆけばきっと
草や木や丘がつらなっている
崖へくるりと背中をむける
つらなる丘を信じるゲーム


立体交差の橋を渡って幹線道路を越えるとき
ぐらりと私の頭が剥がれ飛んでゆきそうになってきた
ゆれてへこむ私の頭の
風景はゆがんで皺寄っている

ゆがんでいる風景のなか
ひとつの顔が ゆっくりと 目の前に浮き上がってきた
顔が間近にとらえられ 見えだしそうになったとき
目がオリーブに変わってしまった
シヨックを受けて
我に返ると
輪郭は私の体に戻り
私は駅へたどり着く



券売機の口へお金を入れる
ボタンを押すと掌へ
オリーブの実がきらりと落ちた
それは 切符になっていた