作品5     ホームへ

ゼリーの公園


さえないことはふりきらなくちゃ
ずっとずっとずっと歩いた
歩き疲れて目にとまる
公園の小道の木のベンチ
木洩れ日が焦げ茶のベンチにながれる
雨に晒された木肌に触れる
ひかり
ゆらり ふらり ゆらゆら
ふりそそぐ木洩れ日をながめていたら

(馬になりたかったんだっ

懐かしい声がベンチに浮かぶ白い霧から聞こえてくる
くしゃくしゃ白い霧がちぢれて私を呼びとめる
この子もそうなの?
懐かしくて
クレヨンの代わり
バッグにあった口紅で
…誰にも見られていないから
細長いベンチの体の上に
目や鼻やたてがみを描いてあげた

あのときも霧がささやいた 
おかあさんとの帰り道
児童公園の街灯がちらちらする夕暮れの細い道で
白い霧がベンチでちぢれ 苦しそうに呼び止めた

(馬になりたかったんだっ

コンクリートには四本の足がしっかりと固定されていた
ねえこれ馬になりたいの?
おかあさんの手を引くと
おかあさんは教えてくれた

    「ベンチがむかし樹だったころ 森のなかの樹だったころね
    馬が焦げ茶のからだをゆすり四本の足をうごかして 森の仲間を
    ぬってゆくのを見ていた子は想いだすの ベンチにされると想い
    だすの 馬が歩いていたことを 焦げ茶の足で歩いていたのを」

四本の足を持たされて
公園の木々に囲まれていたら
歩きたいよね 馬になって

焦げ茶の丸い背もたれは耳を描くと 頭になった
座るところが胴になる 前足と後ろ足もできた
さあこれで馬らしくなったけど
ごめん 口紅ピンクだった
輪郭 ピンクになっちゃった

少し先には
公園のサイクリングロード
ローラースケートで滑っている
黒いタンクトップの子と
縞シャツを着た女の子
ふらふらふらふら滑っているから 馬になるのだったらぴったり
初心者どうし 違和感ないよ
一緒にそこで練習しよう
一緒にやればだいじょうぶ
黒の子が縞の子につかまった
馬も私にたよっていいよ
脇腹についててあげるから 歩いて縞の子のそばまでゆこう
まだ霧がゆれたりするけれど
もうね いまは馬なのだから
輪郭のある馬なのだから


ふらふら そろそろ
サイクリングロードは硬そうだから転ぶと痛い きおつけて
足踏みの足がふらついてリボンみたいに震えてる そうとうあぶなっかしいかな
ほらほら後ろからお花見の電動車椅子の人達がくる クララのように立てるといいね

    大島桜
      そめいよしの
        大島桜はいい香りです

香りを吸い込むと大きくひらくお前の肺もピンクかな
首で上下にバランスをとって並足の練習してみよう
サイクリングロードの白線どおりに
並足 並足 もつれないで
波打つたてがみがきれいだよ
どうみたって馬になってる ほんとにいいよとてもいい
芝生の丘でお花見にはいった さっきの車椅子の人達
こっちをみてるのは小さな子だね
りんごの絵のあるハンカチを膝の上にかけている
あっ りんごをもいで投げてくれた
ころころころころころがってくる

    ころがる架空のりんごです

ありがとう このりんごならたべられるの この馬は
かりかりたべるよ 歯がいいの
耳もいいの 目もいいの
足もいいの
ぜんぶ 馬なの


りんごをたべた馬を撫でると白い霧はふわりと離れ
風のなかへ溶けていった

    離れてももうへいきです

焦げ茶の毛並みが日差しをうけて弾むように光っている
マーガレットの花壇が見える あの外側は海だから
波打ちぎわへ遊びにゆこう
並木をくぐると芝生の海辺 波が青くよせている
ひろい渚を
馬にまたがり 軽快な足並みで走ってゆこう
白い飛沫があたりにあがり 芝生の青い香りがはねる
ひづめで薄くひろがる波を軽いリズムで掻きあげて
水のフリルが幾重にも馬の焦げ茶の足にまきつく
私は両手をたくましい馬の首にまきつけて
青い水の波打つ岸を 木陰をぬって
馬と走った




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