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水鈴      柵にもたれて 噴水をみていた 〈19歳最後の日だよ〉 少し離れた隣のベンチから ピンッと声が飛び込んできた Tシャツにジーンズの女の子が二人 スニーカーの足を投げ出し 無造作なまま 張りつめて ベンチで夢中におしゃべりしている 横顔にかかる髪もはしゃいで たわわに揺れる果実の危うさ 爪を立ててオレンジの皮 ざくっと剥いたら たちのぼる  甘い爽やかな果皮の香り 笑いだした 軽く固く 揺する肩から跳ね上がる 粒子が 熱い 私は渇いて さっきから手に持っていた缶コーヒーを流しこむ “缶コーヒー 飲んでいるのに ほんとにオレンジの匂いがしてきた” 液体が揺れる 笑う オレンジ ざくっと剥いたらたちのぼる 爽やかな 果皮の香り 二人は青いファイルを開いて 何か話し合っている 何の相談をしていても オレンジの中にはダイヤモンドを一つづつ入れて 密輸だな イメージして 一個 オレンジを 掌に固く握り締め そして肘を深く曲げ 力いっぱい放りあげた 高く 夏の 青空へ オレンジが指をはなれて飛んだ 真夏へ 飛んでゆく オレンジだ 池には噴水の輪が上がり 丸く水面へ落ちている 水が鳴っている 池の上の 水は鈴の音がした