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枯葉で、アイメイク 北爪満喜 歩いて 舗道の枯葉を拾った   黄 ベージュ  薄茶 えんじ すきな色の 枯葉を拾って 拾ってしまえばなにもない ひとりで歩く商店街のざわめきが渦になってゆく 道へせり出す商品の ワゴンがなだれこんでくる うごめく人とワゴンに疲れ 顔をあげると 晴れた陽に 道がしろくひろがっていた みつめるもののなにもない道     「みつめるものがなにもなくても 瞳だけは輝かせたい」 枯葉で、  アイメイクをしようと思った   黄 ベージュ  薄茶 えんじ ビルのガラスと向き合って 枯葉を割って片目づつ 瞼へすきな色を貼る 色の無いいつものマスカラを抜く (接着剤) を皮膚にぬる ひとカケラづつ縁どると 両目は収穫祭の祭壇 ぎざぎざの枯葉のモザイクが 瞼に捧げられてゆく 枯葉で厚くなった瞼を  そっとたくしあげてみた 乾いた枯葉のもろく尖って 重なってゆく葉の奧で イキて 眼が 潤みをおびて    枯葉の森に落ちている    濡れた木の実をみつけたら    足をとめて拾いたい 拾いたい 森の眼になった 目の前をずっとのびてゆく なにもなく乾いたひろがりに イキて 眼が 木の実のコエが 潤みをおびて光りだす    枯葉ノ衣ニオオワレタ 森ノ中ノ 私ヲミタラ    亡骸ノ私ヲミカケタラ     拾ッテ     コナゴナニシテホシイ    ムシッテ    「ワタシ」ヲ ミツケテホシイ 「早稲田文学」1998年8月号掲載