小島姫 第3話
小島姫がいなくなって数日が経ちました。 お城は、人が一人いなくなったというのに不審に思っている人な ど殆どいませんでした。今まで小島姫が皆の視線を独占していたの が、今度はお妃の天山に代わっただけだったのです。 これがおそらく、天山の魔女たる所以なのでしょう。 みんながお妃様の額に突き刺さる爪楊枝に、そして堂々とそそり 立つツノのティアラに釘付けです。 しかし、城内でお妃様の魔力の影響を受けてない人も、わずかな がら残っていました。 王様のヒロ斎藤と、カ・シン男爵です。 2人は城内のサロンで、漬物と渋茶を前に、小島姫の失踪につい て楽しそうに話しています。 「ねえ、王様?」 カ・シン男爵が、湯飲みを卓に置くと、話を切り出しました。 「小島姫、とうとうやられてしまったようですね。」 マスクの下の唇を歪ませながら、言いました。 「いや、男爵、これは遅かれ早かれ来ることだったろう。私たち にできることは、この事態を楽しむことくらいだよ。ふふん。」 王様は、人の良さそうな下がりぎみの眉をいちだんと下げて、 卓に頬杖を突いて、漬物を突つきながら楽しそうに言いました。 人が良さそうにみえるのに、王様はなかなかの悪です。 「小島姫がいなくなってからというもの、お妃様のあの生き生き した様子といったら、失笑ものですな。ふふふ。」 男爵も、マスクのネクタイをいじりまわしながら言います。 「天山のストレスが溜まっていく様子はなかなかに良かったな。 ははは。我が妻ながら、なかなかに見せてくれたよ。姫は少々残念 なことになってしまったがな。これだけ楽しませてもらえればまあ、 仕方が無いだろうな。」 そのように言う王様の眉は、下がりっぱなしです。 「しかし、小島姫は私の調査によると、まだ生きてはいるようで すよ。中西が、姫を森の中に解き放ったようでね。今姫は、森の奥 深くに住む、餅つき兄弟のもとで暮らしていますよ。」 カ・シン男爵の唇が、マスクの下でどんどんVの字に吊り上って いきます。 「ほほう。さすがに耳が早いな。君のご自慢の人工衛星で、ピー ピングかね。科学の進歩というものは、すごいな。」 「ええ。私の数少ない楽しみですからね。」 「ははは」 「ふふふ」 『はははははっ!』 お城のサロンでは、2人の笑い声がこだまします。 一方、中西に森の中に置き去りにされた小島姫は、うんざりした 様子であてども無く森の中を歩いていました。 「まったく中西の奴、お義母さまの命令で、よりによって人気者 のあたしを亡き者にしようだなんて。でも、お義母さまがあたしを 憎んでたなんてねえ。全く気が付かなかったわ。
あたし、何かしたかしら。
ああっ!それにしてもこうやって歩いてるのも辛いわねえ。 だいたい森の中なんてお菓子もマル禁ビデオも無いじゃないの!っ ていうか、あたしが集めてたマル禁ビデオコレクション、どうなっ たのかしら。もしかして、中西の奴が持っていっちゃったのかしら。 あいつは食べることと寝ることと女にしか興味ないからねえ。まっ たく、あんな頭の悪い奴にこんな事されちゃうなんて、ほんとに頭 に来るわねえ!」 ぶつぶつ言いながら、小島姫は森の木々に実る果物を、手当たり 次第にむさぼりながら、時折飛び掛かってくる森のけだものたちを、 無造作にラリアットで吹っ飛ばしながら歩いていきます。 「それにしても疲れたわねえ。さすがにあたしも寝る時間だって のに、人家の一つもないのかしら。あたしはお城育ちだから、さす がに地面にそのまま寝転がるってのも嫌だしねえ。困ったわ。」 姫は、そう言いつつ、もし人がいたときに備えて笑顔作りに余念 がありません。 「あたしのこの無邪気な笑顔があれば、泊めてもらえるわよね。」 そういうと、姫は気を取り直して、先へ先へと進んでいきます。 暗い森の中で白い月の光に照らされて、襲い来るけだものたち を蹴散らしていく、レースの寝間着を着た、まだらの金髪のオバ チャン顔というのは、猛烈に異常な光景です。 夜が白々と明けゆく頃、ようやく姫は前方に人影を見つけました。 「あぁ、これでやっと何とかなるわね。あの人たちに頼んで何と かしてもらおうっと。」 そう言いながら、鏡の前で作り続けてきた笑顔を顔に貼り付かせ て、明け方の森の薄霧に浮かぶ、7つの人影に呼びかけました。 「すいませーん!」 続きを読む
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