ティコ・ムーン
監督:エンキ・ビラル

 これも・・ずいぶん前に観に行ったので、ひょっとしたらもうやってないかも知れませんね。(単館上映みたいだったし。)
 観に行く前の情報によると「SFチックな新感覚のフィルム・ノワール(探偵映画)」ってことだったんですけど、これはそーゆージャンルに含んでもいいのかなぁ?って感じでした。

 舞台は植民地化された月面。そこを取り仕切る独裁者一族は、青い染みに全身を冒された挙げ句死に至るという奇妙な遺伝病に悩まされている。で、その死を免れるための手段が臓器移植。「ティコ・ムーン」という男が完全適合者とされたが、件の男は二十年前から行方不明・・というのが基本的なバックグラウンド。そこへ持ってきて、その独裁者と言うのがフランス出身で頑までの(我々の言葉で言えば)フランス「おたく」。月面に凱旋門やエッフェル塔を建設し、言葉もフランス語以外を不許可とするあたりは、映画などにフランス語の使用を義務付けた、今のフランスを風刺していると見ることもでいる。

 で、そーゆー所へ持ってきて、二十年前以前の記憶を失った謎の彫刻家(彫刻も禁止らしい)が登場する。ってぇアンタ、コイツがティコ・ムーンじゃなかったらいったいなんなんだ?的な、その流れがなんとも・・。まあ、探偵映画なら、この人物が実はカギを握りながらもティコ・ムーンではなく・・みたいなノリになるところなのだろうが、そーゆー派手などんでん返しのようなものはほとんどない。ティコ・ムーンを反体制派の暗殺者から守るため派遣された殺し屋の女は、それこそいとも簡単にティコ・ムーンとくっついちまう(しかも仲間を裏切って大立ち回りする)し、全体に世界が狭いので「謎の人物」として登場する人々は一瞬にして謎でも何でもなくなってしまう。「月世界」とはいえ、空気があり、青空が広がるそこは、若干それを意識させる「ための」シーン以外では、そうであることすら忘れてしまうくらいだ。雰囲気を作る小道具としてはともかく、「SF感覚」とまではとても言い難い。

 まあ、そんな訳で、面白いには面白かったがずいぶんと登場人物そのもののプロットに助けられてるなぁ、と思う。テーマみたいなものがない割には「楽しませる」演出に欠けていた、と思う。フランス映画ならでは(?)の雰囲気はよいが、それ以上ではない。全体的に、一言で言ってしまえば、あまりパッとしない映画でした。はい。[EOF]

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