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産業医活動

福岡市医報 平成8年11月号

労働安全衛生法 改正さる
福岡市医師会 産業保健担当理事 山浦隆宏

 平成8年10月1日より、労働安全衛生法が改正され施行されました。
 "過労死・突然死"の社会問題化等に対応できる法体系を整備することを目的とした法改正です。一定以上の要件を備えた有資格者に産業保健指導を行わせて"過労死"を未然に防ぐことを目的としております。この目的を達成するために、産業医・事業者・国の各々の立場に権限の強化や責任の拡大がなされています。
 私ども医師会会員にとって大きく関わるであろう改正は以下の4点についてです。

1.産業医の資格要件について
 1)日本医師会産業医学基礎研修修了者(日本医師会認定産業医)
 2)産業医科大学産業医学基本講座修了者
 3)労働衛生コンサルタント合格者(保健衛生)
 4)大学で労働衛生関連科目担当の常勤講師以上の教職経験者
 5)その他労働大臣が定める者
 以上のいずれかの要件を備えた医師のみが産業医として認められると改正されました。
 但し、この資格要件については平成10年10月1日まで猶予されております。その猶予期間が過ぎても、平成7年10月1日以前から産業医をしている事業場に関しては、その医師が上記の要件を備えていなくとも、その事業場についてのみは当分の間は産業医であることを認めるとの制度変更に伴う経過措置を与えてもらえています。しかしながら、もう既に一部の地域では、労働基準監督官が事業主に対して、産業医として選任している医師が要件を備えた医師であるか否かを確認するよう指導を開始しているとの情報が入ってきております。産業医をしている事業場で若干不愉快な思いをさせられるかもしれませんが、平成7年10月1日以前からその事業場の産業医をしていて、その事業場が新たな業種を新規事業として取り組み始めたりせず、別の事業場の産業医を新たに引き受けたりしなければ、経過措置により産業医としての要件を備えてなくとも産業医はできると事業主の教育をお願いいたします。
 また、猶予期間が2年間程度ありますので、福岡市医師会主催の日医認定産業医研修会を受講していただければ、2年間で新規に認定産業医の資格を得られるよう計画しております。

2.労働者数50人未満の事業場での産業保健活動について
 50人以上の事業場については選任された産業医を中心として産業保健活動を推進すればよいが、50人未満の事業場についてはこれまで明文化されてなかったのですが、今回の改正で、地域産業保健センターを医師会に委託して運営していくので、事業者はそれを活用することが明文化されました。
 福岡ブロックの予定としては、平成9年度に地域産業保健センターが設置される可能性が高くなっており、現在、福岡ブロックの郡市医師会で受託運用について検討を進めているところです。地域産業保健センター事業とは、50人未満の事業場に登録会員となってもらい、登録された産業医や保健婦を介した産業保健サービスを展開する事業です。事業受託の際には会員の皆様のご協力をお願いすることになると思います。

3.健康診断結果の本人への通知について
 事業者の責任として、健康診断を受けた労働者に対して結果を通知することが明文化されました。従来は、本人への通知義務はありませんでしたので、健康診断結果は健診票に記入して事業場保存しておけばよかったのですが、今後は、事業場保存分と本人渡し分の2部を要望される場合が増えることが予想されます。

4.産業医としての権限強化と責任の明確化について
 今回の法改正で事業者の責任はかなり拡大しております。
 産業保健に通じた医師を産業医として選任すること。労働者の健康を確保するために必要な勧告を産業医から受けた場合は、これを尊重し、それが故に産業医に対して、解任その他の不利益な取扱いをしないこと。労働者の健康保持に必要な措置についての医師などからの意見を勘案して、必要がある場合は、就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮や、施設・設備の整備等を講ずること。健康診断を生かすために、本人へ結果を通知すること。特に必要があると認められる者には、医師・保健婦(士)による保健指導を受けさせ、生活習慣改善に努力させること。
などが改正点として挙げられています。
 医師については、産業医としての医師と健診をしたり保健指導をしたりする医師とを明確に区分しております。"産業医"には勧告権を与え、事業者はこれを尊重し不利益な扱いをしてはならぬと明文化されました。"普通の医師"からは、意見を聴き、それを勘案して対策を講じなさいとしているのみです。
 従来は医師であれば誰でも産業医とすることができたのですが、今回の改正で一定要件を備えた医師しか産業医とすることができなくなりました。その結果として、研鑽を積んだ医師に相応しい権限の強化がなされました。
 しかしながら、責任の明確化も含んでいると考えていた方が良いようです。労働省・日本医師会の見解としては、一定要件を満たす医師が産業医として判断したことは"無責"である。但し、民事訴訟の可能性は否定できないとのことである。

 今回の法改正は、事業者に対しては、かなり厳しいものとなっております。それをテコにして事業者を啓蒙する機会でもあります。福岡市医師会としましては、福岡ブロックの郡市医師会とも連携を取りながら、会員の皆様方の産業医活動が"かかりつけ医"機能の強化につながるような環境づくりに努力いたしております。私ども医師会会員としましては、一定要件を満して責任を全うできる産業医であらんための努力をしておけば良いようです。