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産業医活動

日医ニュース 勤務医のページ 平成9年6月20日号原案

労働安全衛生法(産業医制度)改正と勤務医

山浦隆宏

 労働安全衛生法が平成8年10月1日に改正されました。

 現在の労働界の現況は、パート労働まで含めると約6,500万人と推計される労働者の60%、約3,900万人は年に一回の健康診断ですら受診しているかどうか、という状況にあります。これに、若年人口・実質労働生産人口の絶対的減少ならびに老齢人口の絶対的増加という国としての活力が低下しかねない現実がすぐそこまで迫ってきております。国を挙げての取組みの具体的方策としての法改正がなされました。

 勤務医会員の皆様方は日頃の診療を通じて、"こんなになるまで何故放置していたのか。定期健康診断を受けていさえすれば。"という思いをなされることが多々あるかと思います。

 一つには、改正前の労働安全衛生法では、労働人口の約40%にしか定期健康診断を義務づけていなかったという側面が関与していることは否めません。ただ、今回の法改正でも、一気に全労働者への定期健康診断の義務づけというところまでは到達できていません。その前段階として、全国に"地域産業保健センター"を設置するので(現行では各労働基準監督署単位にひとつ。平成9年度までに347センターの設置完了予定。)、事業者はそのセンターを活用する旨が努力義務化されました。

"地域産業保健センター"とは、
 @健康相談窓口の設置
 A個別訪問による産業保健指導
 B産業保健情報の提供
 C産業保健に関する広報・啓発
などを行うサービスセンターです。

 もう一つは、健康診断を折角受診していても、本人へのfeedbackが不十分であることが多いということです。
そのため今回の法改正には事業者責任として、
 @健康診断結果を本人に通知すること
 Aその結果についての意見を医師から'聴く'こと
 Bその意見を勘案して就業条件等に配慮すること
 C労働者には保健指導を受けさせて健康習慣の確立に努力させること
などが明文化されました。

 勤務医会員も含めた医師会員の関心が治療に重点を置くというのでは、国としてのバランスが取れない時代になってきております。我々医師会員は厚生並びに文部の行政分野には精通していて地域保健・学校保健には積極的に取組んできておりますが、労働行政分野の産業保健への取組みは十分とは言えない現状です。国民一人一人の生涯を通じた福祉という観点からも是非、産業保健への関心も高めていただきますようお願い申し上げます。

 また、今回の法改正の主眼である"質の高い産業保健サービス"を目指すという観点から、産業保健サービスのキーパーソンである産業医の専門性向上も新たに定義されました。

 従来、医師の資格があれば誰でも産業医になることができました。この点で日本医師会は先行して平成2年度より日本医師会認定産業医制度を発足させておりました。産業保健全般をバランスよくカバーする50単位の講義・実習を研修することで初めて産業医としての認定を与え、その資格を維持するには5年間にバランスよく20単位を履修しなければ資格更新を認めない、という制度です。医師会関係諸兄の尽力により平成8年10月時点で約29,000名の日医認定産業医が誕生しております。この医師会の努力を組み入れて、労働安全衛生法が改正されました。

"産業医"として法的に認められる資格として定義されたのは、
 @日本医師会認定産業医
 A産業医科大学産業医学基本講座修了者
 B労働衛生コンサルタント(保健衛生区分)
 C大学にて労働衛生科目を担当したことのある常勤講師以上の経験者
 Dその他労働大臣の定める者
に限定されました。

 そして、その"産業医"の専門性に相応しいように権限の強化もなされました。法的に、産業医には勧告をする権限が与えられ、事業者はその勧告を尊重しなければならず、産業医に対して決して不利益な取扱いをしてはならない、と明文化されております。

 上述いたしました"地域産業保健センター"事業の運営問題や日医認定産業医研修事業の実施問題なども各地域特性に応じた諸問題が存在いたします。地域保健としての産業保健への取組みが重要性を増してきております。専属産業医の先生方や大学で労働衛生を担当されてある先生方が勤務医会員の中に多数いらっしゃいます。産業保健を専門とされるそのような先生方には、医師会が中心的役割を担い始めた産業保健活動に積極的に関わっていただき、先生方のお知恵をお貸しいただけることを期待いたします。

 健全な日本を支えるためにも労働生産年齢期をいかに過ごしていくかは非常に大きな課題となっております。今回の労働安全衛生法の改正は、そういう観点からの社会基盤確立を目指したものであり、医師会の従来からの努力と今後の協力を前提としたものになっております。病人になってしまってから関わるだけでなく病人になる前から関わることを、医療人に対して世の中は期待しています。6,500万人の産業保健を3万人の日医認定産業医でカバーできる筈もありません。勤務医会員の先生方の取組み如何が日本の国力を左右すると言っても過言ではない状況にあります。一生涯を通じた関わり合いとしての産業保健に是非とも前向きに関わっていただけることを強く期待いたします。