
日医ニュース 勤務医のひろば 平成6年4月20日号
専門性ということを考える際に、どのような教育・修練を受けるかということは当然大事なことですが、どの様な方向性の関心を持って知識・経験を積み重ねるかということもまた重要なことだと思います。この「関心」という観点から、産業保健の専門性とは次の様な所にもあるのではないかと考えています。
例えば、「胃潰瘍」に関心を持つとします。
臨床の現場にいますと、痛みなどで苦しんでいる人を目の前にします。その苦しみを一刻でも早く取り去ってあげたいという気持ちから、的確な状況把握と適切な処置という事が自然の関心になると思います。胃粘膜の状態がどのようになっているのか、粘膜に変化を生じさせたのは、摂取物なのか、胃分泌液なのか、胃血流状態はどうなのか、支配神経の状況はどうなのか・・・。内科的処置で充分なのか、外科的処置も必要なのか・・・。
産業保健の現場にいますと、その人の生活状況が視野に入ってきます。何が胃に影響を与えたのか、その影響をコントロールしバランスを回復させるにはどうすればよいかということが自然の関心になります。食生活など生活リズムはどうか、職場や家庭などでの人間関係はどうか、職場ではどのような位置付けで仕事をこなしているか、ライフステージから発生しやすい悩みはないか、同じ職場に多発しているとすれば、それは職場の物理環境なのか、会社が置かれている経営環境なのか・・・。本人への生活改善やカウンセリングだけで良いのか、人間関係の調整に乗り出した方が良いのか、適正配置を上司に助言するか、会社組織の置かれている状況を経営者に報告して改善策を考慮してもらうか・・・。
以上のように、どういう状況に接することが多いかの違いに応じて関心も自然に変化し、専門性が培われて行き、臨床の分野では診断法・治療法の専門家に自ずとなり、産業保健の分野では環境や集団の解析法・改善法の専門家に自ずとなるというものではないかと考えています。