私たちをとりまく情勢


 日本の経済は「景気回復」局面にあるといわれていますが、大企業の収益が大幅に改善する一方で国民・労働者のくらしはいっこうに改善せず、「二極化」の傾向が顕著になっています。

 国内政治を見ても、相変わらず大企業優先・対米従属の一方で福祉切り捨て・消費税増税をはかるなど国民犠牲の政策がおしすすめられています。

 「金融ビッグバン」の進展とともに、大銀行と外資が利益を享受する一方で中小金融機関、金融労働者の犠牲が拡大し、さらには消費者への被害も懸念され、金融機関の役割が問われています。損保でも、雇用にまで手をかける攻撃が行なわれ、職場にはますます展望が失われています。

 まさに、労働者・国民受難の情勢と言っても過言ではありません。

 しかし、「年金改悪反対」、「労働者保護法制定」をめぐる、全労連・連合・全労協の、国会前を中心としたさまざまな形での共闘や、自公保連立政権の悪政に対する野党の共闘など、運動面での歴史的な前進もこの1年間で見られました。また、労働裁判における反動判決が相次ぐなか、電通過労自殺事件の勝利解決という、働く者の権利についておおいに意義のある成果も得られました。損保でもACEのたたかいなど、大きな到達点を築いています。

 「平和と民主主義」の面でも、南北朝鮮が民族統一に向けた共同宣言を発表し、また、NPT再検討会議で、内容は不充分ながら「核廃絶を約束」との合意に至りました。

 人間の歴史は、決して平坦な道を歩んできたのではなく、長いたたかいの中で、時には後退・反動の時期も経験しながら、発展・進歩を遂げてきました。幸福と平和は、人類共通の願いであることは、歴史が証明しています。そして、そのことは、たたかわなかれば実現は望めないし、たたかってこそかちとれることも、私たちは学んでいます。国内外全体にしても、金融・損保にしても、あるいは職場にしても同じです。

 まもなく21世紀を迎えます。新たな世紀がだれにとっても幸福なものとなるかどうか、労働組合の担う役割も大きなカギを握っています。この一年も、全損保統一闘争に結集し、大いに奮闘しましょう!


1.国内外情勢の特徴

 

☆ 経済の「グローバル化」が進み、1国の経済の動向が、他国に影響を与え合う傾向が強まっています。とりわけアメリカ経済の動向は、全世界の経済に与える影響が大きく、大きな関心事となっています。アメリカの経済は好調な成長を続けていますが、その一方で、貿易赤字が対日で20.7%増となるなど依然増大しており、その健全性に疑問が呈されています。アメリカ経済のこうした不安材料は、そのまま世界不況への危惧につながっています。アメリカ政府は、日本に対し低金利(ゼロ金利)維持・構造改革・景気刺激策を強く要請し、自国経済を支えています。しかし、貧富の差の極度の拡大などの不健全な体質を根本的に改善すること抜きには、その不安定さは払拭しがたいものがあります。

 

☆ 7月の月例経済報告で経済企画庁は、景気の現状について、6月に続き、「厳しい現状をなお脱していないが、緩やかな改善が続いている。企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが徐々に強まってきている」としました。

 上場企業の今期連結決算は4年ぶりに増収増益となり、大企業の業況指数も3期連続プラスを記録するなど、企業収益の回復は鮮明になっています。一方で、5月の実質消費支出は前年同期比▲1.9%と2ヵ月ぶりに減少に転じ、依然として個人消費は低迷から脱していません。

 

☆ 5月の失業率は4.6%(前月比▲0.2%、完全失業者328万人)と、2ヵ月連続で低下しましたが、中高年男性では依然として高水準で推移しています。2000年春の大卒就職率は最低水準の91%で、3万人の「就職浪人」が発生しています。また、労働者の27%がパート・派遣などとなっており、「フリーター」の数が151万人に達するなど、不安定雇用が拡大しています。

 このような雇用情勢のもと、上述のとおり消費支出が低迷し、「消費が景気回復の重しになる構図」(日経)は依然続いています。「景気回復」とはいうものの、大企業の収益回復が進む一方で、雇用・生活不安はますます深刻化し、国民・労働者のくらしという観点で見るとなお実感は乏しいといわざるを得ません。

 

☆ こうした状況にもかかわらず、大企業は「国際競争力の強化」と「高収益体制の確立」を追求し、相変わらずのリストラ「合理化」を乱暴にすすめています。さらに、これを政府も法制面などから支援・推進し、さながら「国ぐるみのリストラ」の様相を呈しています。

 労働基準法・労働者派遣法・職安法など労働諸法制のあいつぐ改悪に加え、税金を投入してリストラを奨励する「産業再生法」の成立など、財界の意向にそった法整備が矢継ぎ早に行なわれました。

 そして今年5月に商法改正・労働契約承継法の会社分割2法が成立しました。これらは、企業の優良部門の独立や不採算部門の整理などの手続きを短縮し、他社との事業統合を容易にすることによって、経営の効率化や国際競争力の強化をはかるという、財界の強い要請によるものです。しかし、一方で会社分割時の労働者の転籍拒否権が一部だけに限定されており、不採算部門だけを切り離す「職場まるごとのリストラ」の懸念も指摘されています。この場合、整理解雇の4要件が通用しにくくなるおそれもあり、賃金などの労働条件も経営不振を理由に切り下げる可能性も否めず、労働者の権利の著しい後退につながりかねません。

 

☆ 国債残高が1999年で359兆円とアメリカをぬいて世界最大になるなど、国家財政は危機的な赤字に陥っています。こうした財政危機を前に政府は、公共事業中心のばらまき予算、米軍基地に対する「思いやり予算」などの浪費型予算を相変わらず続ける一方で、年金改悪・医療費値上げなど福祉切り捨て政策をおしすすめ、さらには消費税率引き上げの検討にはいるなど、ツケを国民におしつける姿勢を続けています。

 

☆ このような国民犠牲、大企業本位の政治を続ける自公保連立政権に対して、批判が広がっています。6月の衆議院選挙で、自公保の3与党は「絶対安定多数」を確保しましたが、3党合計の議席数は激減し、「選挙で森内閣は信任されたか」との問いに、6割の人が「信任されず」と答えています(朝日モニター調査)。

 

☆ 東京都では、2000年度予算でシルバーパスの有料化・医療費助成の削減・私学助成の削減・都立学校の授業料値上げなど福祉・教育の切り捨てが具体化されました。また、都職員に対し賃金切り下げ、成績給の導入などがおしすすめられ、石原都政の労働者・都民犠牲の姿勢があらわになりはじめています。


2.金融・損保情勢の特徴

 

☆ 「金融ビッグバン」がおしすすめられる中、産業全体の再編が加速しています。大手グループでも、東京三菱銀行と三菱信託銀行の統合、さくら銀行と住友銀行の来年4月の合併、三和銀行と東海銀行の持ち株会社設立(20014月)・2002年の合併などが相次いで発表されるなど、めまぐるしい動きがありました。

 また、経営危機に陥った金融機関では、日債銀がソフトバンク連合に、東京相和銀行・幸福銀行は米投資機関に譲渡される方向性が明らかになりました。これらに際しては、いずれもバブル時の放漫経営の責任の所在を曖昧にしたままで公的資金の投入により損失の穴埋めをする一方で、その大義名分として従業員の削減などリストラが強引におしすすめられました。

 

☆ 銀行では、20003月期決算で大手16行のうち14行が経常黒字となり、地銀・第二地銀も3年ぶりに黒字決算となりました。一方、不良債権処理は16行で46千億円にのぼり、完全処理にはなお相当の時間を要することが明らかになっています。

 こうした状況のもと、5年連続のベアゼロに加え、さらにリストラが加速し、大手10行で1年で5,800人の人減らしが行なわれるなど、銀行労働者へのさらなるしわよせが行なわれています。

 

☆ 証券では、株式市場の活況を背景に、野村証券がバブル以降最高の1兆円の営業収益(経常利益は3,180億円)を記録するなど、大手社の決算は昨年の赤字決算から一転して黒字決算となりました。

 6月に始動したナスダック・ジャパンに対抗すべく、東京証券取引所では、世界の主要証券取引所と24時間取引ができる「グローバル・エクイティ・マーケット」の設立にむけて準備に入りました。このように市場間の資金取り込み競争が激化するのにともない、「効率化」競争も激しくなっています。東証では、40歳以上の定昇削減などの「合理化」をすすめようとしており、利益重視の体質をあらわにしはじめています。

 

☆ 生保では、所得の伸び悩みを背景とした解約の増加により保有契約が減少し、運用面でも利息・配当金収入が8年連続の減となっており、「逆ざや」も10社で14千億円にのぼっています。

 新規契約は伸びていますが、これは日生・住友生命が割安な保険料の商品を投入したためと言われており、体力勝負の価格競争がエスカレートし「勝ち組不在」の消耗戦への突入が懸念されます。

 東邦・第百生命の破綻、大正生命に早期是正措置、協栄生命の外資傘下入り、そして千代田生命は東海銀行から1,000億円の資本投入を受けるなど、経営不振といわれていた生保の処理がこの半年の間に急速にすすんでいます。

 

☆ 損保では、算定会料率遵守義務の経過措置が7月で終了し、いよいよ完全自由化を迎えます。これに伴い、東海社は10月から自動車保険をすべて独自料率とすることを発表しました。

 料率競争がエスカレートするなか、自動車保険金が1999年度に対前年度3.6%増と急増し、「補償範囲の拡大競争が収益の悪化につながっている」といった指摘もされています。

 20003月期の上場損保14社の決算は、保険料収入が0.8%減と減収傾向に歯止めがかかったものの、増収は大手中心に4社のみとなっています。また、収益力についても、格差が拡大し、二極化の傾向を見せています。

 このような状況下、規模拡大と事業効率化による競争力強化をねらって、三井・住友、日火・興亜、大東京・千代田の各社が相次いで合併を発表するなど、再編・統合の動きも加速しています。

 

☆ 自由化の進展とともに、損保各経営は「生き残り」を合言葉に「効率化」をおしすすめ、人事諸制度・賃金体系や臨給制度の改悪、月数削減、3臨廃止などの人件費削減にとどまらず、はては雇用にまで手をかける攻撃が現われています。エース経営の整理解雇に加え、千代田・日産・同和・興亜・日動では希望退職募集などの動きもありました。

 職場では、慢性的な人減らしのなか、生命と健康までも脅かされ、人間性の破壊をもたらす長時間労働が蔓延しています。こうした状況のもと、職場ではますます疲弊感がつのっています。

 際限のない体力勝負・効率化競争を続けるのではなく、誰もが人間らしく、誇りと展望を持って働ける産業・職場の実現こそが、まさにいま求められています。


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