世界、
西元直子
風のある日は空にいくつもの凧が揚がる。
海岸の埋め立て地には時おりどっと強い風が吹きつける。広い埋め立て地の
向こうには白い波をたてて暗緑色に荒れる海があり、その反対側にはまばら
に生えるシュロの樹とそのまた向こうに遠く街が見える。
子どもは埋め立て地の真ん中に立って糸を繰り出す。みるみるうちに凧は高
みへ解き放たれる。風が波打ち際のほうからうわんと砂を吹きあげ、細かな
砂が子どもの赤っぽいくしゃくしゃの髪に降りかかる。日に灼けてワンピー
スからくろく突き出た腕や足は砂だらけになる。低い鼻と頬骨の出た顔も砂
にまみれる。スカートが翻る。子どもは目を細め口のなかの砂粒を噛んで空
の一点を見つめる。凧が青いはるかな高みから地上の小さなひとを引き揚げ
ようとする。凧をさらに高く揚げようとして子どもは大きく強く糸を引く。
世界、
世界、
世界、
世界のながれおちる縁で、
ひとりで、
砂でざらついた手のしたにあった、
手のなかにあった、
手のそとにも、