同人誌 Emmett より 詩編2
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はて

中島直子 


波が生まれる瞬間を知るのはいつも後から
よせて
かえして
くりかえす
リズムがなかったら認識すらあやうい始まりと終わり
4年前の今日
私は不法侵入をした


今着いたばっかりなの
という顔をして彼女は生きていた
そしてたぶんその顔のままで死んだ
不器用のせいだろうと誰かが言った
臆病のせいだろうと
ちがう、愛のせいだと(俺は知っているのだ彼女の秘密を)
何かのせい、なんてことがあるのか
何かのせいにできるくらいなら最初からうちのめされることはなかった
彼女は私にとって永久にベクトルの一点であり
自分が何をしていようと息のかかりそうなほど近くで
彼女のくるぶしがひっそりと居るのを知るけだ
目のゆらぎ
ひるがえる膝
空気を震わす声帯
強情そうな髪の一本一本
私がちゃんと見ていさえしたなら
彼女が私の中に住むことになったのと同じように
私を彼女の中に住まわすこともできたのにと
繰り返し思う
このぼろぼろの楽譜みたいに弾き直すことができたなら
黄色く褪せた小説みたいに弾き直すことができたなら
もしもそうできたなら


 4年前の今日、彼女が飛んだ飛田給のホームに行きベンチにぼんやりと座った。急行列
車が前髪を跳ね上げるたびに死ぬ芝居を繰り返し、終わらない呼吸を憎んだ。それから電
車を乗り継いで彼女のアパートへ行った。窓をみるだけ、と思っていたのに、3階まで行って
みたら鍵が開いていたので思わず中に入った。ガランとしていた、からっぽだった。
何もないとおもった。箱だと思った、何を期待していたのか、と。
 本当は何もなくはなかった。ひとつだけあった。
 何もない、と思っているわたし。
 わたしひとり。


よせてかえす点だったから
あそこをはてというのだろう
裏返ったから
生きて死ぬ彼女と
死んで生きる私とが
だきしめあった点


彼女という螺旋をのぼっていくわとしという魚は永遠に傷をいやすことなどない
漏れる空気に追いつかれないよう
ただ体をふくらましながら
魚はのぼる

























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