今月へ

2009/2

[脱皮/齋藤恵子さんの詩集『無月となのはな』]

2月27日
 雪まじりの雨がふりとても寒かった一日。2月になって春のように暖かい
日があったり、こんなに寒かったり、季節もシンドウして冬を脱皮してゆく。
通路の詩と写真の展示は、「脱皮」だった。ひび割れて、亀裂から脱皮して
人も季節も進んでゆく。そのことを願っている。
どうか、シンドウする自分のひび割れ、亀裂を怖れずに受け入れる勇気を
持ち続けられますように。

(太田美和さん、渡辺十絲子さん、岡島弘子さん、感想をありがとうございました)



齋藤恵子さんの詩集『無月となのはな』を読みました。
「無月」の日暮れの迫る山の中で泊めてくれる家を探し、
つぎつぎに断られ、追い詰められてゆき、ついに真実を曲げてしまう。
形代を舞わしんさるか・・人形をあやつるか、という問いに、あやつる
と答えなければ、決してだれも招き入れてくれない村。そこで、命の危険
の迫った「私」はできないことを、できるといってしまう。言わされてゆく
経過の展開はぞくっとし、こうしたねじ伏せられるような残酷さに直面させ
られました。培われた自然との神秘な時や幻想的な時が、身体から滲むよう
に物語空間を紡ぐ齋藤さんの詩集は読み応えがありました。
そうした統一感のある詩の中で、「海辺の子牛」はキラっと入った亀裂でした。
鮮やかに心に刻まれます。


「海辺の子牛」より

海辺にしろい子牛がいた
ほそくて肩のあたりが骨のかたちのままだ
小枝の脚はふるえ
しおり紐の尾がふらふらゆれている

わたしは近づいた
海の青を映している真っ黒な目
カールしているまつげがぬれている
おそるおそる背をなでた
背は思いがけないつめたさをしていた
体温がわたしの血管へ青く流れ込んでくる


この詩から、私にも体温がわたしの血管へ青く流れ込んでくる!
と感じられます。まるで物語空間の皮膜が裂け、じかに起こって
いることを作者と共有したようにリアルです。
印象的なのはこの詩には


 わたしを破壊してください
ふいに感情のような大きな波が砂を打った


という詩行があるのです。齋藤さんの脱皮の予兆を感じるのは
私だけでしょうか。何かを破壊して、みごとな物語空間の亀裂から、
脱皮して、詩と齋藤さんが生きてゆかれるのだと思わされました。





[棲息]

2月23日

水の波紋のなかの空がゆれる。

水面で樹木の裸の枝はゆらめく。

浮きながら鯉は枝の間を滑り、空を破る飛沫をたてる。

すうーと

水面が胸のなかへ溶け込んで

ゆらりと

生まれる前の羊水をゆらす。

わたしの羊水



[銀色の宇宙人]

2月16日
 つぎつぎ咲く椿の花。この花はおいしいらしい。きょうも鳥がきていた。
近づいてみると鶯色で目の輪だけ白い鳥、メジロだった。虫よりも蜂より
も先に鳥が食べる。

でもよくみると雄蕊の花粉や雌蕊はのこっている。秋にはピンポン球ほど
の椿の実がつくだろう。

幻冬舎の『奇跡のリンゴ』を読んだ。凄かった。
絶対不可能といわれるほど困難な無農薬でリンゴを実らせることに成功した
農家、木村秋則さんの記録だった。読むと、虫と雑草と病気のなかで
周りのリンゴ農家から迷惑がられながら、収入もなく何年も実のならない
リンゴの木、衰弱してゆくリンゴの木と、向き合って、それでも信念を
崩さずに、知識を得て実験し工夫をしてやりとげたということが、どれほど
偉大な奇跡なのかわかってくる。そして今のリンゴがどんなに繊細で人が手を
かけなければ実らないものなのかも知ることができた。
あまりにも追い詰められたとき、人はファンタジーを体験するということも
河合隼雄の心理学とぴったりだった。木村さんは、本来おおらかな明るい人
だけれど、絶望的な日々の中で、銀色の宇宙人に会い円盤に連れ去られた体験を
語っている。銀色の宇宙人は木村さんが子供の頃から親と耕してきたリンゴ畑
にいたとき現れたのだった。


[暖かい一日/森永純写真展『瞬〜揺』]

2月13日
 きょうは暖かい一日でした。コートをはおっていると少し暑い昼でした。
  

お知らせ。
新宿のエプソンイメージギャラリー、エプサイト森永純写真展『瞬〜揺』を開催してます。
3月1日までです。波に雫に波頭。そこからさまざまなものが触発されます。
ただ海の水面であっても、見ることとは何か、思考させられます。
興味の有るかたはぜひ。

私は森永さんの写真集「河−累影」のドブ泥に打たれて、『ARROWHOTEL』の中の詩の一つ
を書いたのでしたが、今回「河−累影」の写真も展示されていて、初めて写真の前に
たって見ることがかないました。モノクロの河表面は、私の祖母、おばあちゃんの
手の甲の皺に似ていると思えたのでした。おばあちゃんの手は機械に巻き込まれた
傷があって、表皮が吊っていたのですが、皺の間に吊っている皮膚はすべすべで、
ときどきその手を触ったり撫でたりしていました。もう亡くなって十数年になります。
今回大きな写真の河の表面をみて、ますます肌触りが皮膚のように感じられました。


通路の私の詩と写真の展示 file.4 ・・3月上旬まで展示してあります。
こちらもぜひお立ち寄りください。


[それぞれふり仰ぐ]

2月11日
 地の底に球根があって、そこから根は地下へ茎は花芽を用意して上へ
のび、葉を押し立てて、花を咲かせた水仙。強く香ることで、遠くまで
香りによって「水仙」が咲いていることを伝えている。この花の根本にはハカマ
という3センチほどの輪のような帯が巻かれている。生け花では、ハカマから
茎を抜き葉を一つづつ抜き、ばらばらにする。そうして一度ばらした後で
うすーい帯の中へ、花の高さや葉のバランスを考えながらひとつひとつさしてゆく。
また組み合わせて、一つの形にしてゆくのです。これがすごく難しくて、終わり
の方になると葉がハカマの輪の内に入りきらない。無理していれようとすると
ハカマが切れてしまうのです。そうなると根元がまとまらないから、セロテープを巻いて
応急処置するのですが、セロテープで巻かれた水仙の足元ほどみっともないものは
ありません。花器や他の花に合うバランスにするために水仙ひとつを再構成する
わけで、水仙だけのためならわざわざそんなことをする必要はないんです。
なので、ただ不器用でへまをしたということのサイン以外ではないセロテープ
は、ほんとなさけないものなのです。学生の頃、祖母の希望で華道をしましたが
師範まで進みましたが、もうほとんど水仙はばらさないのです。そうしなくても
みごとなバランスで葉が伸び上がります。


友達のお見舞いに行きました。パジャマがかわいかったのでした。
話したり、リハビリで病院内をぐるぐるあるいたり、運動になった
お見舞いは初めてでした。ホテルのような部屋には綺麗なものや
CDが置かれていて、音楽CDは星の数ほどあるのに、私がもっている
数少ない好きな音楽CDと同じものだったのがちょっと嬉しい偶然でした。
無理せずに回復してくれますように。応援してます。
(忘年会でもらいすぎだった千円を返し忘れてきてしまったのでした)
また、持ってゆきます。



[一月、朝日が昇るのを見た]

2月9日
 寒いのにずっとみつめていました。ひと月前、伊豆へいったときの朝日です。
雲がこんなに光をためていて、しんとしたなかに荘厳な音楽が聞こえてきそう
でした。ときには山の輪郭の上に、遠い闇の果てから昇る太陽の雄大さをあびる
のは、近視眼的になっていた自分をオフにするために必要なんじゃないだろうか
と思えてしまう。


●小島きみ子さんのブログに「もーあしび」16号の私の詩「ヘアーサロンで」
の感想が書かれています。いつも丁寧に読んでいただいて感謝です。



 土曜日、新井啓子さんが前橋からこちらに来たついでに、通路の展示を見て
いってくれました。
先月、犬飼愛生さんが大阪からの旅の途中で銀座へ寄っていってくれたから、いつも誰か
と会う口実を与えてくれる通路の展示に感謝する気持ちがうまれます。
 島野律子さんや五十嵐倫子さん木葉揺さんや川口晴美さんもFile4を見てくれたということです。
みなさん。ありがとうございます。

 新井さんは、今回の展示の雫の写真を気に入って、あるワークショップで活用
すると言ってくださった。さっそく展示と同じく印刷して郵送。お役に立てれば嬉しいです。
新井さんは、(詩人ではない方々に)詩を読むようになって欲しくて・・とおっしゃっていた。
ほんとにそうです、と私も思いました。


 きのうは、関さんや芦田さん、荒川さん、川口さんたちと歴程新年会で朗読会の打ち合わ
せができた。
  今回、3月22日の大塚文庫での朗読会は「花」がテーマ。
  朗読参加を希望される方は当日受付に申し出てくださいね。
  先着10名様となりますのでお早めに。
  「花」がテーマの40行程度の自作詩をお願いします。





[窓の外へ顔を向け]


2月6日
 冬の植物園では、植物たちはみな窓の外へ顔を向け、何かを待つような
おももちをしていた。日のはじまりを待つようでも、小さな蜂や小鳥を
待つようでも、雨や陽差しをまつようでもあった。もしかしたら、歩き
だそうとしているのかも知れない。植物たちは根を伸ばして、歩いてゆき
種を飛ばして歩いてゆくから、これから行く方へ顔をむけているのかも知
れない。




 ところで、夜の某○賀を歩いていたら、どうしてこんな名前にしたの?
私なら、ちょっと入りたくないです、というお食事処がありました。
 
動物が二つ組み合わさった名前です。

その動物は

虎

と

馬

虎馬・・コバではないでしょうね。なら、やっぱり

トラウマ

なーぜ、お食事処にこの名前?

分かりません。どう考えでもすごくおいしくて記憶の残るというより
すごくまずくて記憶に残るほうを思い浮かべるのではないでしょうか。
○賀店ということはチェーン店なのでしょうか。わかりません。