第1譜・じっくり
1999年10月 於「yahoo初級ラウンジ」
白 afoo_foohon
黒 the_great_sabaki (5目半コミ出し) =自戦記
┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼2┼┼┼┼┼┼1┼┤
├┼6┼┼8┼┼┼┼┼┼┤
├┼57┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼9┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼4┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼3┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第1譜 9手(通算1−9)
この碁は、sabakiのリベンジマッチである。『悲惨の譜』その1の俗な出の敗着の碁以来、再戦の機会がなかった。
sabakiは、基本的にテレホタイムしか出没しないが、afoo_foohonさん(以下、「あふうさん」という)は比較的早い時間帯にyahooに現われる。久々の再会である。これを逸しては機はないとみたか、自宅外からのアクセスにもかかわらずsabakiが無謀にも勝負を挑む。いつ落ちてもおかしくない環境だったのだ。しかも、落ちたら多分二度と戻れないだろう。まさに執念の挑戦といえよう。
黒番を強引に占めたsabakiは両三々。気のいいあふうさんは、あっさり白番に座り、小目と星のコンビネーションで対抗する。いかにもバランス派らしい布石だ。黒5のカカリにも、ハサまずあっさりと6とコスミツケた。ヒラキを与えても、二立二析だから悪くない、と見ている。じっくりした展開になる、かと思われた。
┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼A┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼7○48┼2┼┼●┼┤
├11○65○┼┼┼┼┼┼┤
├9●●┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├10┼┼┼3┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼13┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼●┼12┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼1○┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第2譜 13手(通算10−22)
白1。相変わらずじっくり風である。黒は2と上辺をくすぐった。ここで白3は誘ったか。すかさず黒は4、6と切り離しにかかる。白9、11のハネツギに黒12は怪しい手。13あたりにがっちり守るのが本手というものだろう。しかし、sabakiは封鎖されるのを嫌った。後手で活きざるを得ないからだ。先手を取ってAのハネツギにまわりたい―。そこで白手を抜けば死であり、手を入れさせれば上辺の補強効果も大きい。そんなすけべ根性丸見えの手である。
白13―。なめられてたまるか。あふうさん憤怒の一手である。
┌┬┬9┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┼78┼┼┼┼┼┼┤
├┼○○●●┼●┼┼●┼┤
├○○●○○┼┼┼┼┼┼┤
├○●●5┼┼13┼┼┼┼┤
├●6┼3○┼┼┼┼┼┼┤
├┼41┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼●2●1210┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼11┼┼┼┼┼┼┤
├┼○◎┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼●┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第3譜 13手(通算22−34)
白1。厳しいノゾキである。◎と連動している。黒は2とツグよりない。すかさず1の2路左ハサミツケ―と思われたが、ここで白3は少し俗だったのではないか。白ハサミツケに黒サガれば、1の左ツギで3と下方へのワタリが見合いである。これで本来、黒参っていた。サガリがだめならば、ワタらせるほかないが、どうやっても整形の形がない。黒4―なんとか一息ついた。いざとなれば隅にコスんで一眼ある。白はあっさり5を決めて眼形を作っておいて、7、9と左上を活きた。黒は10とトンで競り合いに持ち込む。白7では、先に中央をくつろげておくのも有力だった。左上は黒からハネつがれてから初めて活きればいい。10に先着されたのはどうだったか。
白は11のノゾキを1本利かして13。しかし、この競り合いは黒歓迎である。
┌┬┬○┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┼○●┼┼┼┼┼┼┤
├┼○○●●┼●┼┼●┼┤
├○○●○○┼┼1┼┼┼┤
├○●●○┼┼○┼┼┼┼┤
├●●┼○○┼┼┼┼┼┼┤
├┼●○┼┼┼24┼6┼┤
├┼●●●●●3┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼○┼┼┼5┼┼┤
├┼○○9┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼87┼┼┼┼●┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第4譜 9手(通算35−43)
黒1。攻める時は、自分の弱点をできるだけ消しながらがいい。白は2から4、6と、右辺に活路を求める。
ここでいったん攻めを中断して黒7。下辺に転じた。白は8と隅を重視。中央の黒が強くなっているので、へたに反発することは禁物だ。あふうさん落ち着いている。続いて黒7の上ツキアタリから下辺を地にして一段落、と思われたが、なんと黒9アテコミ。怪しげな手である。
観戦していたtoubiさんも「あやしいなあ…」と言っていた。
┌┬┬○┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┼○●┼┼┼┼┼┼┤
├┼○○●●┼●┼┼●┼┤
├○○●○○┼┼●┼┼┼┤
├○●●○┼11○┼┼┼┼┤
├●●┼○○┼┼1079┼┤
├┼●○┼┼┼○○8○┼┤
├┼●●●●●●┼┼┼┼┤
├┼┼┼3○┼┼┼●12┼┤
├┼○○12┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼○●5┼┼┼●┼┤
├┼┼┼┼46┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第5譜 12手(通算43−54)
黒1のあやしげなアテコミに対して、白は2から4、6と応じ、下辺にめり込んだ。もうひとつ黒ノビても、なおハわれ、ハネアゲが先手になる。黒大失敗である。こんなことならやはり俗にツキアタって下辺を地にしておくべきだった。sabakiは頭に血が昇った。下辺を放置して、再び中央の白に襲いかかる。黒7ノゾキから9。しかし、白は10にマガり、中央での眼もちとダメヅマリの黒二子をとがめるシノギを見ている。しかしそれでも黒11。あくまで攻めんかな、である。今度はsabakiが怒る番だ。
白12―。ここに石がきてはとても攻めが続きそうにない。しかし、sabakiの次の一手は、観戦者を驚倒させるにたるものであった。
┌┬┬○┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┼○●┼┼┼┼┼┼┤
├┼○○●●┼●┼┼●┼┤
├○○●○○┼┼●┼┼┼┤
├○●●○┼●○┼┼┼┼┤
├●●┼○○┼┼○●●┼┤
├┼●○┼┼┼○○○○┼┤
├┼●●●●●●┼┼┼1┤
├┼┼┼●○┼┼┼●○┼┤
├┼○○●○┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼○●●┼┼┼●┼┤
├┼┼┼┼○○┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第6譜 1手(通算55)
次の一手は黒1。トリカケである。これを見た瞬間、toubiさんからも驚きの声が上がった。というか、今から冷静に考えれば、「ウケた」と言った方がいいかもしれない。無理もない。まさかこんな石、取りに行くなどとは誰も予想しないに違いない。しかし、下辺の損が大きく、黒はいわゆる「攻め得」では間に合わない。そもそも、取りに行かないのであれば、前譜11などと打ちはしない。右下を守って白に手入れを強要した方がいいくらいである。
しかし、おおいにギャラリーをわかせはしたものの、実はこの碁はもう半分負けいくさである。なぜか。よく考えてほしい。シノギ派のsabakiが、必死に石をトリカケに行っている。この展開自体、すでにあふうさんの作戦勝ちといえるだろう。そうでなくてもこういう碁は、取りに行く方がいやな気分がするものである。シノぐ側は活きれば勝ち、しかし、トリカケ側は、ちょっとした失敗も許されない。いや、この場合、「成功」以上の成果が要求されているのだ。あとの半分は、あふうさんの運次第、ということになるだろう。しかし、この碁ではあくまでもあふうさんは運に恵まれなかった。
┌┬┬○┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┼○●┼┼┼┼┼┼┤ 【参考図】
├┼○○●●┼●┼┼●┼┤
├○○●○○┼┼●┼7┼┤ ○○┼┼●┼┼┼┤
├○●●○┼●○┼┼┼┼┤ ○┼●○┼┼┼┼┤黒6(譜のA)
├●●┼○○┼┼○●●┼┤ ○○┼┼○●●┼┤
├┼●○┼┼┼○○○○5┤ ┼┼┼○○○○┼┤
├┼●●●●●●3┼┼●┤ ●●●●○┼┼●┤
├A┼┼●○┼┼1●○6┤ ●○┼┼○●○┼┤
├┼○○●○┼4┼2┼┼┤ ●○2●3●┼┼┤
├┼┼┼○●●┼┼┼●┼┤ ○●●14┼●┼┤
├┼┼┼┼○○┼┼┼┼┼┤ ┼○○57┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘ ┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第7譜 7手(通算56−62)
黒のトリカケはどう考えても無理筋である。白は1とツケ、黒2のヒキに3とツイでここをはみだし、黒は収拾つかないだろう、と思われた。しかし、ここで4のラッパツギが人を食ったような手だった。これで左方の白2子を制しており、しかも白の脱出路も止まっているのである。これにはあふうさんも動揺したようだ。
じつは、後日の研究でわかったことだが、【参考図】白1以下3、5というシノギがあったのだ。こう逆襲して黒を切断すると、左辺から伸びた黒にも眼がなく、この時点では譜の黒Aと活きざるを得ない。そうすると、参考図白7となり、あくまで黒が白を取りに行くのは破綻に終わりそうである。黒は、何とか白を最小限の活きにとどめて先手で左下トビコミにまわりたいところだが、それでも、もう地では争えない。
あふうさんが最後までこの手に気づかなかったのは僥倖としか言いようがない。そもそも、このような黒の攻めはいわゆる「無理攻め」というやつであり、どこかしら必ずボロがでるとしたものだ。
白は5、6を交換して7。それでもまだ、こうしたさまざまなシノギ筋があるのが黒の悩みのタネである。
┌┬┬○┬┬┬┬┬┬┬18┐
├┼┼┼○●┼┼┼┼1314┤ 11ツグ(4)
├┼○○●●┼●┼┼●12┤ 17ツグ(6の下)
├○○●○○76●1○220
├○●●○┼●○9451019
├●●┼○○1615○●●38
├┼●○┼┼┼○○○○○┤
├┼●●●●●●○┼┼●┤
├┼┼┼●○┼┼○●○●┤
├┼○○●○┼●┼●┼┼┤
├┼┼┼○●●A┼┼●┼┤
├┼┼┼┼○○┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第8譜 20手(通算63−82)
白はA以下のシノギが残っている。だが、右上の黒の構えにも隙が見える。このことが、かえってsabakiに幸いした。右上に手をつけたくなるのは人情である。黒は1、3と応じ、白のシボリ筋を甘受する道を選んだ。いかにも筋悪の、力一本という感じの手である。sabaki自身がもっとも嫌う手だ。しかし仕方がない。この白を仕留める以外に黒の勝ちはないのだ。ここで白が、シボる前にひとつ6と出たのが大いに問題だった。右上の味悪を強調したものだが、これは自らのダメをつめ、黒を味よくしてしまっている。黒は7と味よく戻ってしまう。白は逆に7の点を占めたかった。それならば黒は16に出て眼をつぶさざるを得ず、白6はそれからでも遅くない。7の点に白石がくることによって、上辺にも味ができ、シノギは容易だったはずである。実戦は、黒9と抜く手が白二子へのアタリにもなり、一気に苦しくなった。
白14となった時、黒はさらに15と二子抜きを打った。1の上の断点を、眼も作る二子抜きで応える方が味がよいとふんだのである。白18以下、次譜10まで、白はいつでも16の下にツいで白A以下の手段を狙うべきだった。そう、この時点では、なお白よしだったのである。
┌┬┬○┬7┬┬┬108○┐
├┼┼┼○●4629●○1
├┼○○●●5●┼3●○┤
├○○●○○●┼●●○○○
├○●●○┼●●●○●○┤
├●●┼○○○●○●●●○
├┼●○┼┼11○○○○○┤
├┼●●●●●●○┼┼●┤
├┼┼┼●○┼┼○●○●┤
├┼○○●○┼●┼●┼┼┤
├┼┼┼○●●A┼┼●┼┤
├┼┼┼┼○○┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
第9譜 11手(通算83−93)
黒1で、白の大石は三目ナカデである。しかし、白は2のオキ以下、攻め合いを狙って食い下がる。しかし、攻め合いを焦った白10が、ついにすべての味を消す敗着となった。
黒11が、すべての白の望みを絶つとどめの一撃である。中央の白との攻め合いは、上下いずれの黒も問題にならない。ここに至ってはAの筋も消えている。黒11を見てあふうさんは投了した。
Aの手はすでに消えていると述べたが、実戦ではたぶん、このタイミングで決行されてもsabakiは正しく応じることができなかったのではないか。なぜなら、これまでの読みはいずれも後日にかなりの時間をかけて読んだものであり、対局時点ではまるでわかっていなかった。しかし、あふうさんはあっさり投了した。おそらく、すべてを読んだ上で、黒をダマしにいく手をあえて打たなかったのだろう。真似のできない潔さ、これぞ「ヘビー級」の誇りである。ぜひ見習ってほしい(←お前もだ、sabaki!)。
ともあれ、sabakiはあふうさんへのリベンジを果たした。じつはこのとき、あふうさんは食事前(夜中でもなかったが、食事にはちょっと遅い時間だった)であったため、非常に空腹だったそうである。A以下を決行しなかったのは、じつは空腹が限度に達していたからかもしれない。昔から、「腹が減ってはいくさはできぬ」という。本局、sabakiの最大の勝因は、あふうさんの空腹につけこんだことであると断定する次第である。
93手完 黒中押し勝ち