1999年1月 私たちをとりまく情勢
以下は、全損保の某組織の、99春闘方針議案の一部である。


1.国際情勢

 98年度の世界経済を見ると、日本をはじめアジア地域経済が停滞する一方、アメリカ経済は「インフレなき成長」をみせるなど好調で、また、ヨーロッパも堅調に推移していました。
 国際通貨基金(IMF)によると98年のアメリカの実質成長率は、3.6%(見込み)と世界全体の成長率(2.2%)を大きく上回っています。しかし、アジアやロシア、中南米に波及した金融・通貨危機、米ヘッジファンドの破綻・経営危機により、好調な成長を続けてきた米国景気も減速の懸念が囁かれています。また、輸出不振による企業業績の悪化により、人員削減や賃金の伸びも抑制され、頼みの内需についても翳りが見え始めています。
 ヨーロッパでは、11か国による単一通貨「ユ−ロ」が99年1月より誕生しました。3億人の人口を擁し、世界の国内総生産の約2割(6兆ドル)を占める通貨圏となり、ドルと並ぶ基軸通貨となると見られ、「ユ−ロ」が欧州経済の持続的成長の基盤になるとの期待が集まっています。しかし、11カ国の国内総生産の7割を占めるドイツ、イタリア、フランスの景気は減速局面にあり、また、「ユ−ロ」の誕生により、参加各国の商品価格水準の差が明瞭になることから、国境をまたいで企業間での価格引き下げ競争がはじまり、処遇などの労働条件や失業率などにも大きな影響が出るのではないかといった懸念がひろがっています。
 80年代から90年代半ばにかけて高度成長を続けてきた東南アジア各国は、97年に発生した通貨・金融危機により、成長率はインドネシアの▲15%超を筆頭に軒並みマイナスに落ち込んでいます。通貨や株式については安定したように見えますが、タイ、インドネシア、マレーシアでは不良債権額も多く、個人消費・設備投資ともに低迷しており、失業率は各国ともに上昇し、社会不安は解消していません。


2.国内政治経済情勢

 主要な経済指標が戦後最悪を記録する『日本列島総不況』が続く中、小渕内閣は、国民・労働者犠牲の政策をなりふりかまわずすすめています。
首相の諮問機関である経済戦略会議は、12月に「二十一世紀に向けた日本経済の再生に関する中間報告」をまとめ、2001年度には2%程度の経済成長を実現するとしていますが、その前提として、消費税増税を「不可避」とし、所得税最高税率の引き下げ、課税最低限の引き下げ、年金制度の改悪、公務員の大幅削減など、国民犠牲をいっそうおしすすめる内容となっています。
 こうした基本姿勢のもと、昨年12月末に決定した99年度政府予算案は、一般歳出で今年度当初比5.3%増と20年ぶりの高い水準となっており、政府は「はっきりプラス成長と自信を持って言える超積極型予算」(小渕首相)、「『大魔神』を1回から登板させるようなもの」(宮沢蔵相)などと述べています。しかし、その財源は、相変わらずの国債の大量発行に頼っており国の財政危機をさらに加速させる危険をはらんでいます。また、歳出の内訳を見ても公共事業関係費を10.5%と大幅に突出させ、従来型予算との批判が起きています。一方減税については、規模は膨らんでいるものの、減税効果がでるのは年収793万円以上の層で、サラリーマン世帯の約6割が実質増税になると推計されています。そして多くの国民が望む消費税率の引き下げは拒否し続けています。この予算案は、財政危機という問題をすべて先送りするばかりか、国民への負担を前提とし、相変わらずの公共事業中心の従来型景気対策であり、これでは行き詰まりの根本的な解決にはつながらないことは明らかです。不況の原因である国民犠牲の政治をあらため、国民生活本位の政策への転換こそが、この国の行き詰まりを打開する道なのです。
 平和と民主主義を脅かす策動も強まっています。すでに政府は、先の国会で「新ガイドライン(日米防衛協力のための指針)」の実行を支えるために「周辺事態措置法案」など「新ガイドライン関連法案」を提出し、次の通常国会での成立をめざしています。
 内閣改造により、自民党と自由党との「自・自連立内閣」が発足しました。これは、「財界・大蔵省そして米国からの風をうけて動き出した自自連立」(朝日新聞)といわれるように、基盤の弱い小渕内閣の延命策と批判され、これまでと同様にアメリカと財界いいなり、国民・労働者犠牲の政治のための離合集散であることが明らかになっています。
 こうした政治がすすめられるもとで、小渕内閣の支持率は低水準のまま推移しており、先の参議院選挙で示されたように国民の政治不信はきわまり、国民との矛盾は拡大するばかりとなっています。


3.東京都の情勢

 95年発足当初は無党派層の多くから大きな変革が期待された青島都政ですが、いみじくも知事が99年の新年の挨拶で「どうも世間では、ちゃぶ台をひっくり返すというのを期待していたらしいんですけれども…」と述べているように、ふりかえってみると結局は、従来の路線の延長であったと言わざるを得ません。世界都市博覧会こそ中止を英断したものの、臨海副都心など大型プロジェクト推進の姿勢は変わりませんでした。「財政健全化計画実施案」では、その目的を「本格的な高齢社会の到来などに伴う行政需要の増大に対して、もはや税収の大幅な自然増は期待できない」として、一方で、「国・地方を通じ行財政改革や地方分権の推進などが強く求められている」として、「施策のあり方を根本的に見直していくことが必要」としています。国や他の道府県を上回る福祉・医療サービスについてはことごとく見直すという受益者負担はそのまま受け継がれ、最終的には超党派的反対で撤回もしくは修正しましたが、シルバーパス廃止・公共施設使用料引き上げなど、「財政再建」の名のもとにさまざまな都民サービス切り捨てが画策されました。
 4月には都知事選挙が行なわれます。大企業主役、都民不在の都政から、都民本位の都政への転換にむけてのとりくみが求められています。

4.金融損保情勢

 98年9月の中間決算では、大手銀行19行(含む長銀、日債銀)の業務純益は2兆2,061億と、バブルがはじけた1990年以降、3番目に大きな額となっています。一方で、長銀を除く大手18行の不良債権処理額は、2兆1,309億円となっており、業務純益のほとんどを不良債権の処理に投入したという状況になっています。このように不良債権処理をすすめているものの、金融監督庁による大手19行の集中検査では、「問題債権」の総額は57兆円と、銀行がみずから査定した額に比べて約7兆円も増加しています。
 国内金融機関の不良債権処理がすすまないなか、98年4月施行の新外為法に続き、12月1日から銀行・証券保険分野の公的規制を大幅に緩和する「金融システム改革法」が施行され、「日本版ビッグバン」が本格化し、ますます競争が激化しています。
 このような状況に対応すべく国内金融機関では、新商品の開発や財務体質改善にむけ、外資との提携、業態を超えた提携、グループ内での結束型の提携、地域補完型の提携など「生き残り」をかけた合従連衡に奔走しています。
 金融再生委員会は「運営の基本方針」の中で、「この3月期までに不良債権問題の処理を基本的に終了するためには十分な資本が必要となる」ことから公的資金投入のさらなる上積みを求めています。また、「業務の再構築、リストラ、金融機関の再編」の努力をする銀行には、注入する公的資金の「規模や条件において優遇を行なう」と記述し、「リストラ」を公的資金投入の条件とする姿勢を鮮明にしています。すでに都銀9行だけで16,000人の人員削減をするという具体案が出されています。
 金融機関の競争激化への対応としてすすめられるリストラが金融労働者へのしわ寄せとなるばかりでなく、消費者へのサービスを低下させ、最終的には社会性・公共性を損なうことになりかねません。また、金融ビッグバンがすすめられる一方で、消費者を保護するための法律はまったく整備されていません。こうした、金融ビッグバンがもたらすマイナス面を指摘する声が、マスコミでも散見されはじめています。
 昨年7月の算定会料率遵守義務廃止以降、損保では、さらに競争が熾烈になっています。生保の損保子会社や外資に加えて異業種からの参入もあって、既存国内損保各社は、軒並み収保が前年実績を割るなど、厳しい決算が予想される状況になっています。
 企業分野では、「BID」と呼ばれる入札方式がひろがり、前年の保険料に対して、2割引・3割引は当たり前、なかには前年の1割の保険料で入札するなど、リスクやコストをも度外視した価格引下げ競争が行なわれ、「何が保険料の適正水準かわからなくなった」などと言われるほどの状況となっています。
 自動車保険でも、通信販売でリスク細分型による安さを売り物にした商品を外資系各社が売り出す一方、高担保を売り物にした東京海上の「TAP」を皮切りに、各社も追随し、大衆分野においても料率ダンピング競争、新商品開発競争が激化しています。
 また、価格競争だけでなく、変形労働時間制・シフト制などを前提とした休日・時間外査定サービスを提供するなど、労働条件までもが競争の具となっています。
 損保各社は、「生き残りのためには事業費率の改善は至上命題」とし、機構・人員の削減、人件費の切り下げをねらった賃金体系・臨給制度の改悪、不安定雇用の拡大など、労働者に犠牲を押しつける政策をなりふりかまわずすすめています。
 こうした「競争」の名のもとに、損保産業の秩序が破壊されています。損保の職場は、業務量の増加により長時間労働・深夜残業が恒常化し、健康や人間性が破壊されています。また、損保各経営が自らの将来展望を見出せないことから「やりがい・はたらきがい」までもが失われつつあります。
 いまの損保産業の岐路にあって、本来の損保の社会的役割を損保産業に携わるすべての者が再認識し、健全で民主的な産業を目指し自由化に対峙していくことが何よりも大切です。
 98年9月の中間決算では、大手銀行19行(含む長銀、日債銀)の業務純益は2兆2,061億と、バブルがはじけた1990年以降、3番目に大きな額となっています。一方で、長銀を除く大手18行の不良債権処理額は、2兆1,309億円となっており、業務純益のほとんどを不良債権の処理に投入したという状況になっています。このように不良債権処理をすすめているものの、金融監督庁による大手19行の集中検査では、「問題債権」の総額は57兆円と、銀行がみずから査定した額に比べて約7兆円も増加しています。
 国内金融機関の不良債権処理がすすまないなか、98年4月施行の新外為法に続き、12月1日から銀行・証券保険分野の公的規制を大幅に緩和する「金融システム改革法」が施行され、「日本版ビッグバン」が本格化し、ますます競争が激化しています。
 このような状況に対応すべく国内金融機関では、新商品の開発や財務体質改善にむけ、外資との提携、業態を超えた提携、グループ内での結束型の提携、地域補完型の提携など「生き残り」をかけた合従連衡に奔走しています。
 金融再生委員会は「運営の基本方針」の中で、「この3月期までに不良債権問題の処理を基本的に終了するためには十分な資本が必要となる」ことから公的資金投入のさらなる上積みを求めています。また、「業務の再構築、リストラ、金融機関の再編」の努力をする銀行には、注入する公的資金の「規模や条件において優遇を行なう」と記述し、「リストラ」を公的資金投入の条件とする姿勢を鮮明にしています。すでに都銀9行だけで16,000人の人員削減をするという具体案が出されています。
 金融機関の競争激化への対応としてすすめられるリストラが金融労働者へのしわ寄せとなるばかりでなく、消費者へのサービスを低下させ、最終的には社会性・公共性を損なうことになりかねません。また、金融ビッグバンがすすめられる一方で、消費者を保護するための法律はまったく整備されていません。こうした、金融ビッグバンがもたらすマイナス面を指摘する声が、マスコミでも散見されはじめています。
 昨年7月の算定会料率遵守義務廃止以降、損保では、さらに競争が熾烈になっています。生保の損保子会社や外資に加えて異業種からの参入もあって、既存国内損保各社は、軒並み収保が前年実績を割るなど、厳しい決算が予想される状況になっています。
 企業分野では、「BID」と呼ばれる入札方式がひろがり、前年の保険料に対して、2割引・3割引は当たり前、なかには前年の1割の保険料で入札するなど、リスクやコストをも度外視した価格引下げ競争が行なわれ、「何が保険料の適正水準かわからなくなった」などと言われるほどの状況となっています。
 自動車保険でも、通信販売でリスク細分型による安さを売り物にした商品を外資系各社が売り出す一方、高担保を売り物にした東京海上の「TAP」を皮切りに、各社も追随し、大衆分野においても料率ダンピング競争、新商品開発競争が激化しています。
 また、価格競争だけでなく、変形労働時間制・シフト制などを前提とした休日・時間外査定サービスを提供するなど、労働条件までもが競争の具となっています。
 損保各社は、「生き残りのためには事業費率の改善は至上命題」とし、機構・人員の削減、人件費の切り下げをねらった賃金体系・臨給制度の改悪、不安定雇用の拡大など、労働者に犠牲を押しつける政策をなりふりかまわずすすめています。
 こうした「競争」の名のもとに、損保産業の秩序が破壊されています。損保の職場は、業務量の増加により長時間労働・深夜残業が恒常化し、健康や人間性が破壊されています。また、損保各経営が自らの将来展望を見出せないことから「やりがい・はたらきがい」までもが失われつつあります。
 いまの損保産業の岐路にあって、本来の損保の社会的役割を損保産業に携わるすべての者が再認識し、健全で民主的な産業を目指し自由化に対峙していくことが何よりも大切です。


5.確かにある「変化の胎動」

 出口の見えない消費不況の長期化。そこでますます強まる国民犠牲の政策。不良債権処理のため国民の血税を湯水のように使いながらすすめられる金融ビッグバン。産業の役割・モラルを揺るがす損保自由化。各社で強引にすすめられる、際限なき「効率化」競争――。こうしたものが、真に展望を示すものとはなり得ないこと、そして何をもたらすのかなどが次第に明らかになってきています。攻撃が強まれば強まるほど、すすめられ方が露骨になればなるほど、その本質は国民・労働者の前に明らかになり、いまの流れに疑問を持つ勢力が広がっていきます。金融ビッグバン一つをとっても、「消費者保護」を求める弁護士・消費者団体の運動など、共闘の条件は広がりつつあります。堺屋太一経済企画庁長官が用いて話題になった「変化の胎動」は、ここには確かにあります。
 競争原理万能主義に支えられた国民犠牲の政策に反対し、「リストラするのはいい企業」といった歪んだ価値観に抗して堂々と要求を掲げ、「国民・消費者のための損害保険をめざす運動」を軸に金融の民主化を求め、99春闘を大いに、意気高くたたかおうではありませんか。


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