名勝負数え唄
 

北方HBを飾った名勝負を、私にとって、忘れられない男たちの熱い激闘を、思いつくままに綴る…。
ここはそんな自己満足的なコーナーです。


名勝負の一

 ノールール・総合格闘1本勝負
 『碑銘』(ブラディ・ドール・シリーズ)

Win川中良一(KO)坂井直司Lose

 勝負は場外の舌戦からはじまった。川中が、「匕首は使わないのか」「後悔するぜ」「俺は、終わってからジン・トニックを飲ろうと思ってる」など、坂井を挑発しまくる。その度にかっとする坂井。若い。
 「ルール、ありませんからね」という坂井の一言でゴング。まず坂井のハイキックが空を切る。初ヒットは、坂井の右ボディブローである。やはり空手をやっていた坂井が打撃では有利だ。しかし、川中も重いパンチで対抗する。構え直し、低く突っ込んでくる川中に坂井の膝。もつれ合って倒れ、また起き上がる。スピードでは坂井が上だ。下腹へのミドル。2発連続してのヒットで川中が尻餅をつく。しかし、すぐさま起き上がり、頭からタックルだ。坂井の息があがる。川中が仕掛ける。ローキック。バックステップでかわす坂井。さらにハンマー・パンチ。坂井は肩で受ける。接近戦は不利と見た坂井が、距離をとる。肘、拳、膝。川中が前かがみになる。顔面に膝。棒立ちになった川中の首筋に、坂井会心の右ハイが炸裂する。川中ついにダウン。しかし、とどめのニー・ドロップは自爆(なんで坂井会心のハイを食らってすぐ動けるんだ?)。また立ち上がり、にらみ合う。両者息があがっている。
 仕掛けたのは坂井だった。川中の動きがスローになっている。前蹴り、肘。血を吐く川中。さらに3発、続けざまに坂井の攻撃がヒットする。しかし川中は倒れない。「タフな男だ」坂井があきれる。「すでに、急所をかわす動きしかできない」そう見たのが、坂井の敗因である。川中をよく知る者ならば、これからが本当の勝負だと思っただろう。坂井は、もういつとどめをさすか、という考えで頭がいっぱいになっている。完全に油断だ。なかなか倒れない川中に、どこかうんざりしはじめていたのかも知れない。左右のフックを眉間に放つが、いずれも急所を外される。「もう一発。それが入れば、仕止めることができる」「川中は動かない。いや、動けないのだ。普通のやつなら、とうに大の字になってのびている」こんなことを考えている坂井はすでに、起死回生の一発を狙う川中の術中にはまっている。連打で崩して、渾身の一発・眉間への右ストレート――。しかし、見事にかわされ、川中必殺の「頭突きタックル」。がっちりつかまえられ、オクラホマ・スタンピードばりに背中を壁に叩きつけられ、失神していく坂井。すぐに目を覚ますが、もはや立ち上がる力は坂井にはなかった。
 見事なKOである。川中の肉弾戦での強さが、いかんなく発揮された一戦であった。
 闘いの後、殺されないと知って歯が合わなくなる坂井。戦闘後まで、完全に、格の違いを見せつけた川中であった。


名勝負の二

 ノールール・総合格闘1本勝負
 『黒銹』(ブラディ・ドール・シリーズ)

   藤木年男(Draw)叶竜太郎   

 登場していきなり、ヤングヒーロー・坂井直司を子供扱いして完膚なきまでにやっつけた叶だが、殺し屋も、「死神」藤木が相手では一筋縄では行かない。
 勝負は一撃だけ。それも、互いに風を感じただけで跳び退り、「簡単に勝負がつくとは思えんな」と、あっさり矛をおさめる。
 結局、このファンにとって夢の顔合わせは決着がつかずドローに終わるが、それでもなんか、達人同士のピリピリした緊張感が伝わってくる。達人は達人を知る、の好例であろう。


名勝負の三

 手錠対短剣
 『檻』(集英社シリーズ)

Win滝野和也(KO)高樹良文Lose

 ※高樹の脚負傷によるTKO。

 「老いぼれ犬」高樹良文、生涯唯一の敗北である(少なくとも手錠ヌンチャク習得後では)。
 素手の殴りあいと違って、両者それぞれ得意の武器を手に、一撃必殺の技を持っている。
 「老いぼれ犬」はもちろん手錠、滝野は伝説のアイテム・「海軍士官の短剣」である。
 勝負は当然一瞬で決まる。にらみ合いの後、呼吸2つで、両者同時に動く。跳躍する老いぼれ犬、低く突っ込む滝野。
 高樹の必殺・「手錠ヌンチャク」がもろにヒット! しかし、滝野は短剣を放さない。効いていないはずはないのに…。
 次の瞬間、太腿を押さえて石段を転落する高樹――。すれ違いざまに滝野の一撃が高樹に手傷を負わせたのだ。戦闘不能だ。
 手錠打ちを受けながら見事に勝った男・滝野を誉めるべきだろう。あまりに鮮やかな一瞬の決着だった。


名勝負の四

 柔道対短剣
 『檻』(集英社シリーズ)

Win滝野和也(反則)村沢Lose

 ※恐怖のあまり村沢が拳銃発砲。村沢は対刃物リベンジ失敗。

 前の勝負と必ずセットで語りたい勝負である。
 警視庁きっての柔道家で鳴らしながら、刃物に脅えて失態を演じた過去がある村沢。何としても滝野の「海軍士官の短剣」と柔道でやり合って勝とうと意気込む。
 しかし、相手が悪すぎた。
 滝野は、村沢が短剣と勝負をしたがっていたことを知り、石段の上で待つ村沢に一歩ずつ近づいていく。その一歩ごとにものすごいプレッシャーがかかる。あと10歩。そこでゆっくりと鞘を払う滝野。この仕草で格の違いが露わになった。つっ、前進する滝野。村沢の眼から覇気が消える。脅えの色が滲み出す。「勝った」確信する滝野。実際にもうこの時点で勝負あった。攻撃姿勢にはいる滝野。村沢は腰の拳銃を探る。攻撃を仕掛けようとする滝野に対し、村沢は夢中で発砲していた。柔道でやり合おうとして拳銃(=凶器)を使ったのだから、明らかに村沢の反則負けだ。滝野の迫力が、村沢を追いつめたのだ。北方HB史上最強の男・滝野和也の、あまりに鮮やかな圧勝である。


名勝負の五

 ノールール・総合格闘1本勝負
 『眠りなき夜』(集英社シリーズ)

Win谷道雄(反則)バーバリ・中原Lose

 ※谷、リベンジ成る。中原側セコンドの室井が暴走乱入、高樹に逮捕される。

 匕首(ドス)を持たせたら天下一品、かつて谷に明確に尾行の気配を感じさせながら、気づかないうちにバーバリのコートを横一直線に裂いた中原。谷を恐怖のどん底に突き落としたつわものだ。

 谷のリベンジマッチの舞台は、室井代議士邸の庭・雪上の決戦だ。
 中原の得物は刃渡り50㎝以上の匕首。谷は、当然それを警戒する。縦に突進する中原に対し、ラグビーの経験を活かして横に走る。匕首が伸びるたびにサイドステップでかわす。斬る中原、かわす谷、しばらくこの展開が続く。雪が両者の足をとる。その度に仕掛け合う両者。谷も蹴り・右と出しているが、中原に鼻血を出させる程度で、クリーン・ヒットには至らない。中原も谷に軽い手傷を負わせ流血させる。
 組みつきたい谷、そうはさせじと中原。馬力は谷の方が上だ。中原も、右手に組みつかれたら終わりだ。
 谷が唯一の武器だった石を投げる。中原の土手っ腹に命中。ひるんだところをすかさずワン・ツー。のけぞる中原に組みつこうとする谷。しかし、中原も必死だ。下から上へ斬り上げる。またも流血する谷。走る。追う中原。谷がつまずいて顔から雪に突っ込む。身体を回転させ、雪を投げてしのぐも、左腕にまたしても手傷を負う。しかし、中原の一撃と同時に放った谷の蹴りで中原も倒れる。滅茶苦茶に匕首を振り回す中原。
 両者立ち上がり、にらみ合う。勝負に出たのは中原だ。谷は相手の動きに合わせて突進し、頭突きを鳩尾に食わせ、がっちりタックル。右手首をつかんで押しまくる。ついに捕まえた!谷は中原の右手を封じ、馬乗りパンチを叩き込む。
 しかし、中原も必死だ。一瞬の隙をついてすさまじい勢いで身体を反転させ、手首をぬくと、心臓への突き一閃。とっさに離れ、かつ腕で心臓をかばったため、致命傷には至らなかったものの、激痛に叫び声を上げる谷。しかし、突きを放った中原の腕を今度こそしっかりと抱え込んでいた。アームロックの体勢で振り回し、さらにすさまじい雄たけびをあげて突進する谷。ハンマースルーで自分も一緒に走ってしまうようなものだ。そしてコーナーポストならぬ石灯籠を巻き込んで両者倒れる。ここで谷が、なんと石灯籠の笠で中原の右手を一撃――。痛い!中原の右手が潰れる。いやな叫び声をあげる中原。そして引き起こし、渾身の右――。それでも起き上がる中原。踏み出そうとする谷。しかし、足が出ない。
 その時、なんと中原のボス・室井が脅えて拳銃を持ち出し、「動くな――」。
 もちろん、物陰に控えていた高樹に逮捕されることとなり、室井代議士一巻の終わりとなる。
 実はこの時、谷にはもはや戦闘力は残っていなかったのだが、そのあまりのパワーと迫力が、室井を極限まで脅えさせ、彼の暴走を誘ったのだ。
 いずれにせよ、迫力・緊迫感・場面設定・結末など、どれをとっても、じつに鮮やかな映画の一場面のようで、やはり北方HBの「このシーン」といわれるとこのファイトをあげたい。個人的には、いまだこれを上回るファイトはない、北方HB史上のベスト・バウトだと思う。


今後の予定(例によっていつになるか、まったくアテなし)

 北方HBを彩る屈指の名勝負…。
 上記の他、とりあえずこんなものを書いてみたいと考えています。
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  ● 川中良一vsサンダー・高岸 …『聖域』(BDシリーズ)より

  ● 来海頼冬vs大野武峰 …『陽炎の旗』(歴史HB)より


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