12頁の詩集 (1976.12.5)
「画集のつぎは詩集かよ…」と突っ込みたくなってしまうタイトルであるが、私は、全太田裕美を通じて(第1〜第3の太田裕美を通して)頂点に位置するLPと思っている。歌唱力・ルックス・女性的魅力・その他身につけた雰囲気など、どれをとっても最も充実しており、また、トップアイドルとしての人気を保っていた時期だったこともあって、なんていうか、とにかくノッていた。携わったメンバーもすごい。よくもまあ、これだけ豪華な顔ぶれを集めたものである。ウルトラマンと仮面ライダーとゴジラとガメラとその他ありとあらゆるヒーロー達を全て集めて特撮映画を作ったようなものである。当時の彼女が、それだけ実力を持っていたことを示してもいる。
1曲目の「あさき夢見し」は、これも車のBGM向きで、とくに雨のドライブがいい。2曲目の「失くした耳飾り」の、静かな立ち上がりから次第に盛り上げていくのは、彼女がもっとも得意とするパターンの一つであり、ひとつのスタイルの確立を物語る。3曲目の「青い傘」は、詞を見ると、はっきり言って“女ストーカー”である。しかし、こんな可愛いストーカーならば、追われてみたいと思ってしまう。「あなたが気づいてくれたならば、何も言わずに帰ります」とは、日本古来のけなげな女性像を思わせるものがある。シングル曲の「最後の一葉」は、ピアノ弾き語りで、「雨だれ」回帰の指向が感じられる。オールドファンにはうれしい1曲である。この曲をきっかけに、O・ヘンリを読んだ人も多いだろう。B面もすべていい。「ミモザ」の可愛さ、とくにデュエット部でさらに増幅される。「赤い花緒」の「何もできずに僕は一人で膝を抱えて泣いていました」は、貴女が福岡さんと結婚した時の僕の台詞ですぜ…(実際にはそんなことしなかったけど)。
そして特筆すべきは、ラストの「恋の予感」である。彼女は『まごころ』以来、アルバムに自作曲を1〜2曲入れて来たが、この曲は、彼女の、曲を作る才能を初めて感じさせた曲である。自分の声の質をよく知り、ファンを魅せるポイントを実によくつかんでいる。この曲はテープに何回も続けて録って(エンドレステープなどない時代だった)枕歌にしたものである。美しい高音に、可愛さというより、包み込んでくるような優しさを感じる。
ジャケットもけだるげな雰囲気が大人っぽくっていい。自分の好きなLPナンバー1は『短編集』だが、このアルバムは、最も完成度が高いアルバムといえよう。