十二月の旅人 (1980.12)
「さらシベ」のために作られたアルバム。第一感、そういう感じがする。アルバムのタイトルがどうしてもそういう連想をさせてしまうこともある。収録曲も、ほかに核となるような派出めの曲がないせいもある。
しかし、あらためて聴いてみると、渋い名曲がそろっている。GJPにも収録された「海に降る雪」だけでなく、「ら・ぼえーむ」「青春のキャスティング」など、あこがれる世界である。前者は、「売れない絵ばかり描いては消して」いる夢追い人、要は何のことはない、ヒモのようなものである。太田裕美のような女に、「その背中を追いかけるのが私の大事な夢」なんて言われたら、これは男冥利に尽きる。後者は、語りかけるような歌い方でしびれさせてくれる。
他に注目したいのは、4曲目の「少女憧憬」である。これは幼い姪(実在の姪のことかどうかは不明)とのふれあいを歌った異色曲であるが、『背中』の「朝、春になあれ」以来の母性をベースにした歌である。ときどきこういう曲が変化球で混じってくるのが、この時期の彼女のアルバムの楽しみの一つとなっている。
続く「メロディー・スモーキン」もしみじみとした名曲である。
ジャケットについては、顔がよく見えない。伏し目の構図ということもあり、なんとなくこの頃のアーティスト路線指向の雰囲気がある(あまり顔を見せないという点で)。