エレガンス (1978.8.1)
重箱のスミの話をひとつ。このアルバム名、『エレガンス』が正しいのだろうか、それとも『ELEGANCE』と英語表示なのだろうか…。CDでも、表紙とCD本体とで表示が違うのである。
これは名曲ぞろいで、しかも歌唱力も再度安定してきて、『背中』とは比較にならない仕上がりを見せている。GJPベストCDのライナー・ノーツでは、「このLPの時に喉が完治した」となっているが、私には信じられない。太田裕美の喉は元には戻らなかったというのが私の見解である。しかし、喉が悪いなりにこの頃からそれなりのテクニックも身につけだして、技巧派に変貌を遂げている。
このアルバムでは「クリスタル・ムーン」「ピッツァ・ハウス・22時」「エアポート'78」が3本柱であろう。
「クリスタル・ムーン」では、「an」が色っぽくて好きだった。こんなに健康的な色気を出せる人は彼女だけであろう。この曲は出だしからおしまいまで、とにかく全て好きである。
「ピッツァ」は、しみじみした曲であるが、イントロの「サラミとオニオン、それとアンチョビ。キャンティのワインとグラスを2つ」が、なんともしびれたものである。一度「ピッツァ・ハウス」なるところに言って、この台詞を言ってみたいと思った人は多いだろう。しかし、歌ってしまいそうで怖い。
「エアポ78」。これはもう、ノれる曲である、うぐいす氏が、「太田裕美が客席にマイクを向け、観客が『アテンション・プリーズ』を合唱する」という演出を仮想していたが、ものすごい発想である。場面を想像して思わず吹き出してしまったが、案外、本当にやったら楽しいかもしれない。しかし、曲名を打っていて思ったのだが、今'98なんだよなあ…。裕美さんもファンも、お互い老けるわけだよなあ…。何せその頃私は16歳である。
B面は、やや盛り上がりに欠ける。1曲目がいきなり“ザ・歌謡曲”「ドール」(これだけ歌謡曲、歌謡曲した曲も彼女としては珍しい)である。まあ、「天国と地獄」の遊び感覚は評価したい。「聞いてるの?」と彼女に責められるところが、本当に恋人同士になったような錯覚を起こさせる。「元気?」は、「あなたはテラスの椅子を引きずり、膝のえくぼに目を走らせる」の詞に、女の鋭い観察力が現われていて怖い。意外と好きなのが、わびさびの「冬の蜂」である。演歌に通じるものすら感じさせる。
LP版の歌詞カードには、ショートパンツ姿でスケボーに興じる太田裕美が写っている。警察の交通安全ポスターにもなった姿で、それこそ超可愛かった。なお、このポスターは交番に行って頼むともらえるという情報をどこかから聞いて、しっかり入手した。お巡りさんに冷やかされたのを覚えている。さぞ、ませガキと思われたことだろう。残念ながらこのポスターは結婚時に処分し、現在は手許にない(太田裕美関連グッズは基本的にみなそうしている)。惜しいことをしたものである。