手作りの画集 (1976.6.21)
「うぐいす商会」氏もかつて書いていたが、ジャケットでは大ハズシしている。まず、『画集』らしくすべて絵で構成されているが、太田裕美の顔が全然似ていないのである。辛うじて裏面の横顔が、「そう言われればそうかな」と思える程度なのである。また、歌詞カードの各曲に添えられた絵も、はっきり言って変な絵ばかりである。
しかし、中身になると、やはり充実しており、このアルバムから3LPは、太田裕美の中でももっともハズレの少ないシリーズである。Hiromist初心者にも、安心して聴ける内容である。
まず、1曲目の「オレンジの口紅」。“明るい太田裕美”の誕生宣言である。うぐいす氏は、『まごころ』を、「人前(特に女性の前)で聴けない曲」と評した(名言)が、「オレンジ」は、まさに太田裕美史上初の「車の中で聴ける曲」といえよう。夏のドライブ、目的地は海、といったシチュエーションのBGMにぴったりである。甘酸っぱい恋の詞も、まったく嫌味なく、さわやかにまとめられている。
はっきり言って、このLPは全曲いいのだが、あえてお気に入りにしぼってふれると、都会に飛び出したやんちゃな男を故郷で心配するけなげな、というよりむしろ母性すら感じさせる女の心を歌った「都忘れ」、シングル曲で「通」の間ではモメハン以上の人気ともいわれる「赤いハイヒール」、郷愁あふれる「遠い夏休み」(幼なじみとの淡い初恋というものにあこがれたものである)、力任せの高音部で圧倒してくる「白いあなた」(「バケタン家族」のギター弾き語り可愛かったなー)、とにかく可愛い「ハネララ」、そしてしみじみ聴くなら「茶色の鞄」。どれも珠玉の名曲である。
いずれにしても、「モメハン」以降、すなわちこのアルバム以降は、流行歌手・太田裕美の時代となり、それ以前とははっきり別人となるのである。真正Hiromistには明らかに物足りないであろうし、厳しい言い方をすると堕落とさえ言えるかもしれないが、しかし、私は「第2の太田裕美」も好きなのである。