君と歩いた青春           (1981.12.21)

 アルバムのタイトルと同じ「君と歩いた青春」以外、全て太田裕美自身の作曲である。

 1曲目の「セカンド・ラン−二番館興業−」。彼女の才能を感じさせる曲である。今にして思えば、この人は歌以上に曲づくりの方に未知の可能性があるような気がしてならない。その発露がこの曲といっては言い過ぎだろうか。どこかでGJPの「ブルー・ベイビー・ブルー」に対する彼女のコメントの冷淡さについて、男心を歌った詞に対して気持ちが向かないのではないかといった意味のことを指摘していた声があったが、これは間違いだと思う。男ごごろをよくわかっていなければ、この歌をこんなに見事に歌い尽くせるものではない。涙なしでは聴けない名曲である。現に公式サイトでも、この曲の評判は高い。この時期、なぜこの曲をシングルカットしなかったのか、と思う。「君と歩いた青春」をリバイバル的に出すくらいなら、こちらの方がよほどよかったと思えてならない。

 「雪・一信」、「くちぐせ」、「しあわせあそび」いずれもいい。「あなたのそばに」――『リトコン』の「青春はアンコールのないコンサート」や、『ごきげんいかが』の「トロイメライ」の流れを汲んでいる曲である。時々彼女自身の決意表明的な曲が出てくる。「Smile」、「時間列車」、「恋はミステリー」、「サヨナラの岸辺」変化に富み、どれも粒ぞろいの曲ばかりである。隠れた名盤ナンバーワンといえば、このアルバムが挙げられるのではないか。

 ジャケットは表側がいわゆる「仏ポーズ」、裏側が悟浄五段氏のHPに画像があるものである。この頃になると、「可愛い」というより「きれい」という印象が強くなってくる。そういえばいろいろな面でイメージチェンジをはかっていた時期のような気がする。

 このアルバムについてコメントする時、避けては通れないのが「君と歩いた青春」である。実は私は、この曲は「12頁の詩集」バージョンの方が好きだ。こちらの方が歌い方も素朴で、本LPバージョンでは気持ちを込めようという彼女の姿勢が、ともすると空回りしている印象がある。現に、ベストCDには、「12頁」バージョンの方が収録されているのだ。


『裕美抄』

ヒロイン