背中あわせのランデブー (1978.2.25)
いきなりショッキングなことを。これは、出してはいけなかったアルバムである。
なぜか。それは、声(喉)の状態が悪かったからである。プロならば、完治してから作品発表すべきであり、このアルバム発行時の状態で出すべきではない。もちろん事情はある。モメハン以降、着実にヒットは飛ばすものの、次第に低下傾向にあった。ここで喉の故障のためにブランクができるのはどういうことを意味するか。トップアイドルのステータスを完全に失う危機にさらされることを意味する。しかし、やはり、プロならば、自信があるならば、声を完全に直し、完全な状態で曲を出すべきである。ゆえに、シングル「恋人達の100の偽り」「失恋魔術師」、そしてこのアルバムは、本来、世に出してはいけなかったのである。
とはいえ、自分としてはこのLPもやはり好きなんだよねー。まずA面の拓郎サイドから。1曲目に「失恋魔術師」が入っている。このアルバム発売後まもなくシングルカットされたが、私はこのLPバージョンのアレンジの方が好きである。シングルバージョンではとくに高音部が喉声(喉をつぶしたのに喉声になるというのも奇妙な話である)丸出し状態で耳につくのに対して、LPバージョンではまだ押さえが効いている。4曲目の「朝、春になあれ」は、続柄不明の「あの子」を思う心が歌われている異色曲であるが、ここまで母性を前面に押し出したのはこれが初めてであろう。ラストの「ONE MORE CHANCE」もリズムがいい。それにしても拓郎の曲って癖があるなあ…。「バっスぅはぁ今ぁ」、「追いかけてぇ、声をかけてぇ」という感じなのである。音符用語で「スラー」って言ったっけ、この技法が頻繁に出てくるのである。実際、拓郎自信の歌もそうだった。
B面は太田裕美サイドである。このアルバムの最大の意義は、初めて片面丸々彼女自作の曲で占めたということである。1曲目の「走馬燈」は、しみじみ落ち着いた曲である。続く「Moon Night Selenade」は、無謀なまでの高音部が苦しそうで、「もっと自分の喉の状態を考えろよな」と言いたくなってしまうが、遊び心を感じさせるおもしろい曲である。好きなのは「ひとりぼっちの海」。これは聴かせる。
なお、余談になるが、このアルバムは「こち亀」(少年ジャンプ)に登場したことでも有名である。