Far East (1983.3.21)
アイドル期とテクノポップ期の過渡的なアルバム。
1曲目の『Drifter』から、いきなり太田裕美の「鼻声」というか、怒鳴りが出てきて、度肝を抜かれる。
しかし、全体的にはまだ、「可愛さ」を前面に出した構成である。
おすすめは『Kiss Me』と『窓から春の風』。
『Kiss Me』は、「研究委員会」HPでも、よく話題にのぼっている。聴いていると「可愛さ」しか感じないのだが、よくよく歌詞を思い起こしてみると、結構意味深である。「Kiss Me,夕べのように、もう一度はじめから…Kiss Me,夕べのように、あのぬくもりが夢じゃないさとJust Kiss Me信じさせて」これは、どう考えてもセクシャルな詞なのだが、彼女の声が、エッチさを消している。セクシャルな詞でも純愛にしてしまう、彼女の声の特性が実に見事である。
『窓から春の風』は、どこかの太田裕美サイトで人気ナンバーワンになっていた。この曲は、「Au…」以下の一人二重唱部分がウリである。彼女の一人二重唱は、他の曲でもよく使われる手法であるが、この曲でもっともよく声の持ち味が生きていると思う。詞の内容も絶品で、人気ナンバーワンになるだけのことはある。この曲といえば、じつに残念なことに、私の所有しているLP版で、唯一キズがあるところなのである。それも、よりによって「Au…」以下で。この部分にくると、「パチ」という音が断続的に鳴るのである。もともとレコードの扱いには無頓着な方だったが、それでも他のレコードは正常なのに、このレコードの、しかもよりによってという部分がいたんでいるのは何とも口惜しい。したがって、私は誰よりも『Far East』の復刻を切望している。
日野晧正の演奏が登場する『Midnight』は、裕美さん頑張っているが、やはりひいきなしに聴くと演奏に負けている気がする。
『あのね』もほのぼのした雰囲気で好きである。彼女に膝枕してもらいたいなーとこの曲を聴くたびに思ったものである。
隠れた名曲が、最後の『ロンリィ・ピーポー』である。「地下鉄の中で、好きだヨなんて言われちゃ哀しすぎるよ」で始まる歌詞が、今聴いてもすごく新鮮でカッコイイ。この曲に、太田裕美の新たな境地が予感される。この曲名は、以降のアルバムにもパート○という形で引き継がれた。私は、やはりこのパート1が一番好きだ。