TAMATEBAKO  (1984.6.21)

テクノポップ・アルバムの第2弾にして、太田裕美のラスト・アルバム。

このアルバムになると、もう「遊び」のオン・パレードである。こんなに楽しませてくれるアルバムも他にないだろう。

1曲目はシングル曲『青い実の瞳』(なぜか正確な曲名がいつも出てこないので、『ブルーベリー』と呼んでいる)。これを本当にシングルで出すあたりに彼女の開き直りが感じられる。世間一般の「太田裕美」に対するイメージを根底から破壊してやろうという挑戦すら感じられる。

『ランドリー』の、情景を思い浮かべると不思議な世界、続く『花誘う鳥目の恋人』(差別語と違うのか?)のお囃子と、次々に少年期の私の理想の女性像を破壊する曲が続く。『ささら』で少し持ち直したかと思えば、『グッバイ・グッバイ・グッバイ』『夏へ続く道』…と翻弄され続け、極めつけが『ロンリィ・ピーポー4』である。完全に遊びまくっている。

私は、思春期には精神的に太田裕美に追いつくことを目標としていたが、『I do, You do』で水をあけられ、このアルバムで完璧に突き放された。

ラストの『ねえ、その石は』は、神秘的な曲である。そして、最後に「こっちを見て」と呼びかける歌詞が、そう言われると見ないともったいないような気がしてしまう不思議な曲である。彼女の結婚直前(ひょっとすると直後かもしれない)にこのアルバムが発売されたこともあって、「今のうちに見ておかないと、もうすぐ私を見れなくなるわよ」といわれているような気がするのだ(当時の心理状態の分析)。傲慢にして切ない詞である。

誰かが「研究委員会」HPに、「このアルバムをCD化しないのは日本音楽界の恥」と書いていたが、このアルバムをCD化しないのは、たしかに日本音楽界にとって大きな損失であろう。完成された遊びの美学が凝縮されている。

Little Concert

Far East

I do, You do

  • 『裕美抄』

    ヒロイン